EP17【クルス・アルカノイドはお人好しである】
「うわぁぁぁぁーーーー!!!」
ネジのアホのせいで箒から振り落とされた俺は木の上に落下した。
あのスピードのおかげで目的地の森林まで既に到着していたのが不幸中の幸いだった。おかげで俺の身体は地面に叩きつけられることもなく、木の枝にキャッチされたのだ。
「……ネジの馬鹿野郎め、あとで覚えてやがれよ」
しかし、俺が落ちたのはかなりの大木だ。降りるのにも苦労しそうである。
上を見上げれば、空中でネジが慌てている様子が見える。テンパってぐるぐる、そこらを回っているのは俺を見失ってたからだろう。
あの様子じゃ、すぐには助けに来ない……というか、アイツに助けに来られても変な風に空回りして、余計問題を大きくされそうである。
そんな訳で俺はなんとか自力で木から降りて、無事を知らせなければ。彼女が何か
をやらかす前に、迅速に。
けれど、どう降りたものか?
俺の右腕は根本から綺麗にすっぽ抜けている。木の高さはざっと見積もっても二〇メートル近い。
これを片腕だけで降りるのは、なかなか厳しいものがあった
「いっそ暴発魔法で木を爆破して……いや、爆風で俺が吹っ飛ぶな」
多少、魔導人形(ドール)の身体が壊れるのを覚悟してでも飛び降りるのが、一番無難なのかもしれない。
ったく……最近は酷い目に遭わされてばっかりだ。〈ドール〉に魂を入れられて、労働を強いられるは。クソみたいな闘技場に命懸けで付き合わされるは。
まぁ、この二つに関しては、借金した俺が悪いのだから、まだギリギリ……ほんっとうにギリギリ納得できるけどさ。
けど、この一件だけは許さねぇ。危うく俺のほうが夜空を煌めく流星になるとこだったんだからな!
「はぁ……んじゃ、飛び降りるとしますか」
中枢系のパーツが集中してる頭を打たなければ問題はないはずだ。足から落ちることを意識して、いざダイブ!
「────危ないっ!」
誰かが俺を呼び止めた。まだ、幼さの残る少年らしき声だった。
「待っててくださいッ。植物魔法(プランツ・マジック)!」
俺のすぐ側に緑色の魔法陣が現れる。あまり見ないフォーマットの魔法陣だ。俺の記憶が正しければ、この魔法陣は確か、自然系のなかでも上位のものだったはず。
「すぐ降ろしますからね」
〈プランツ・マジック〉は植物の成長を促したり、逆に枯らしたりできる他、樹木や草木を自由に操ることもできる便利魔法だ。声の主はそれで、木々を操り、枝を滑り台のように地面に垂らした。
滑って降りて来いという意図だろう。
「とっ……! ありがとうな、助けてくれて」
俺は素直に降りて、声の主と向き合った。
やや背丈の小さな少年だ。大きなリュックを背負い込み、丸メガネを掛けていて、そして特に目を惹かれたのは耳まで覆い隠すようなデザインの鍔広帽だ。
なかなかに見事な変装だと、俺は感心してしまう。
「隠さなくていいぜ。お前、ノームだろ?」
「おっと……よく分かりましたね」
「そりゃ分かるさ。〈プランツ・マジック〉をあんなに上手く使えるのは大地を司る四大精霊のノームくらいのもんだからな」
親父の古い友人の中にもノームがいたらしいからな。なんでも、親父と一緒に土砂崩れを防いだことがあるとか、ないとか。……ケッ、親父のことなんて思い出しても詰まんねぇや。
ただ、そんな知識のおかげで、さっきの魔法陣を見た途端ピンと来たわけさ。どうよ、名探偵スパナ・ヘッドバーン様の推理は?
「確かに、それもそうですね。僕はクルス。クルス・アルカロイドと申します。どうぞ、お見知りおきを」
クルスと名乗った彼は握手を求めてきた。俺もそれに応答しようと思ったが……右腕がない。
「あっ、腕……どこで壊しちゃったんですか?」
「どっかのバカな魔女のせいで無くした」
「えーと、それは災難で……? けど、その状態じゃ不便でしょう」
クルスがリュックから取り出したのは、簡易な構造をした〈ドール〉の腕だった。だが指は三本しかないモデルで、安物に付ける予備的な腕だ。
「少し、失礼しますよ」
彼は手慣れた様子で俺の接続部の設定を調節し、右腕にそれをはめ込んでみせた。
「応急処置です。腕が見つかるまで、それを付けていてくださいね」
「お、おう……だけど、なんでこんなもんを持ち歩いてるんだ?」
わざわざ〈ドール〉の部品を持ち歩くなんて物好きなんて、ノームに限らず、そう多くないはずだ。
「理由なら二つありますよ。一つは僕が趣味で〈ドール〉の造形師まがいのことをしたり、部品を作成に挑戦してるからです。そして、もう一つは貴方の身体を作ったのが、この僕だからですよ、スパナ・ヘッドバーンさん」
ふーん、趣味でねぇ。けど、すこし似合わないな。ノームは土の精霊なんだから、炭鉱で働いたり、植物を育てるための肥料を作ったりする仕事で働いてることが多いのに。
というか、待て……コイツ、今なんて言いやがった⁉
「お前まさか……前にネジが言ってた、腕利きの造形師って⁉」
「えぇ、僕のことですよ。というか、ネジ社長から聞いてませんか?」
全く聞いていない。アイツはやっぱり肝心なことを先に言わないクセがあるな。
それにしても、このS200・FDの身体を作ったのはどんな天才肌の奇人だろうと思っていたが、こんな優男のノームだったとは。
「聞いてなかったんですね。それでは改めて自己紹介を。僕はクルス、貴方の造形師としてメンテナンスを担当しますよ」
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