EP16【ハイスピード急転直下!】

 やはりというか、なんというか。


 ネジが大金の話をするときは決まって俺がリスクを被らなければならないようだ。日取り三十万を魔導人形に払う仕事とくれば尚のこと。


 魔獣退治。────それがネジの紹介した仕事だった。


 魔獣っていうのは、魔族が昔住んでいた地域の方に生息する凶悪な獣のことで、昨今では人肉を好み、魔法も操れる害獣の総称でもある。


 魔獣は魔族たち厳しく管理しているはずなのだが、餌を求めて脱走してくる事例も年々増加の一方だった。


 そんな魔獣を狩る一団として〈ギルド〉も結成されているのだが、こっちは構成員の高齢化と減少が問題視されている。もともと、魔族と戦争をやっていた時代の戦士たちが立ち上げた組織なのだから、平和になって二十年、そりゃ衰退もするだろう。


 若者だって血なまぐさい荒事より、デスクワークで高収入を得る方がいいに決まっているのだ。


 でもって今回の仕事は、そんな人手不足〈ギルド〉からの救援らしい。


 ◇◇◇


「この仕事の本来の報酬は一八〇万ペルらしいの。でも魔獣退治には免許がいるから、実際のところ素人の私たちはこの仕事を請け負えないのよね」


「ネ、ネジィィ!!! ブ! ブレぇ!!」


「けど組員の手伝いって名目なら仕事を受けるの。その場合の分け前は〈ギルド側〉と私たちの二対一で六〇万。それをさらに私達二人で分かるか日当三〇万ってわけ……ねぇ、 ちょっと! ちゃんと聞いてる?」


 ネジはお金の話をしてくれた。事前に金額のことを話すのは大事だと思う。


 けど、俺にはそんな話を聞く余裕がなかったのだ。だって俺は今、ネジの操る流星号に必死にしがみついているのだから! 


「ブレーキッ! ブレーキッ!」


 俺たちは目的地の森林までを流星号で移動していた。だが俺は魔女の箒というものを舐めすぎていたらしい。


 ネジのような小柄な少女でも振り落とされずに、平気な顔で乗っているのだから、素人の俺でも後ろに乗せてもらうくらいなら余裕だと。


「うぐぁぁぁぉ! 振り落とされるぅぅ!」


 凄まじい風圧が俺に殴りかかってくる。


 多くの魔女は保護魔法(プロテクト・マジック)で風圧を緩和しながら箒を駆るらしいが、俺にそんな芸当が出来ないのはもうご存じの通りであろう。


「ネ……ネジィ!! せめてスピードを!」


「何? スピード? もっと上げる?」


 この暴走族紛いめー!!  ネジの腐れトンチキはさらに流星号にさらに推進魔法(ブースト・マジック)を掛けやがった。


 つか、お前はいくら〈プロテクト・マジック〉があるからって、どうしてこの殺人級の加速に耐えてんだよ⁉ 


「あっ……」


 不意に俺の手が箒から離れた。


 何もない空中へと放り出されてしまったのだ。


「うぉわぁぁぁぁぁ!!」


「嘘っ⁉ アンタ、何やってんの⁉」


 それはこっちのセリフだと言ってやりかった。テメェがスピードを上げたせいでこのザマなんだから。


 俺の身体が重力に引っ張れて真っ逆さまだ。


「拘束魔法(チェーン・マジック)!」


 ネジが魔力で具現化した鎖を放る。掴まれってことだろう。


「ぐぉぉぉ!! ファイトおぉぉぉ!! 俺ぇぇぇ!!!!」 


 気合いで必死に手を伸ばした。ここで鎖を掴めなきゃ、俺の身体は地面に叩きつけられてぶっ壊れるぞ。だから意地でも掴むんだ!


「天下のスパナへ・ヘッドバーン様を舐めるなァァァ!!!」 


 ほぼ、根性だ。根性だけで鎖を掴んでやった。俺は掌越しに握りしめた鎖の感触を確かめる。


 ふぅ……なんとか助かったみたいだな。寿命が縮むぜ、まったく。


「早く引き上げてくれぇ」


「ちょっと待ちなさい。増力魔法(パワー・マジック)」


〈パワーマジック〉はそのまんま、使用者の筋力を増強する魔法で……ってあれ? なんか、ネジが鎖を巻き上げる力が強すぎるような……。

 

 ────スポッン!


 俺には最初、その間抜けな音の正体が分からなかった。だが、ここでも俺の身体が何だったかを思い出してもらいたい。


 俺の身体は魔導人形(ドール)「S200・FD」。そう、さっきの「スポッン!」という間抜けな音の正体は俺の腕が外れた音なんだよぉ!! 

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