「わかった……何百万だろうが、何千万だろうが、俺は俺の責任を背負ってやる」

「なら、サインを貰おうか。証明魔法(サティフォケイト・マジック)っと、」

　俺とグレゴリーの間に魔法陣が現れる。これは、互いに魔力を流し合う事で契りごとを結んだことを証明するためのものだ。

「契約内容は、Ｓ２００・ＦＤが今から二四時間以内に俺が今から指定する口座に五〇〇万ペルを振り込む事。五〇〇万ペルが振り込まれた場合、Ｆ６７８・ＷＤの所有権をネジ・アルナートに譲渡すること。これで良いな？」

〈ドール〉は本来、主人の命令に従うものだ。主人であるネジに無断でこんな契約をして許される訳もない。〈ドール〉としても俺は失格みたいだな。

「ごめん……ネジ。俺にはこれしか、フレデリカを救える方法が思いつかないんだ」

「へっ、ご馳走さん！」

　グレゴリーは思わぬ収入に大満足のご様子だ。俺とフレデリカを残して、ゲラゲラと笑いながら、連中は夜の闇へと消えてゆく。

「スパナ様……」

　そのまま俺は黙って、フレデリカの手足を縛る縄を解いてやった。

　視界の隅にある彼女の顔は赤く染まっていた。彼女だって元人間なのだ、泣き腫らして顔を赤くしてもおかしくはないと思った。ただ、彼女の内申はそうじゃないらしい。

　バチンッ！　という音が二人だけの通りに響き渡る。

「えっ……」

　頬を平手で打たれたのだ。

「ばかっ！！　貴女は大バカです！！　なんで、なんで……私なんかを、助けたんですか！　貴女は借金を返して、それで、ネジ様とも仲直りして、それで良かったんじゃないですか！」

「フレデリカ……」

「私のせいです……私は罪人なんです。だから、私がどんな目に遭おうと、それは過去に犯した罪への償いであって、私はその全てを受け入れる覚悟があります。それなのに……それなのに！　貴女は子供の頃からそうでした！」

　いつも、落ち着きのある彼女が、ここまで感情的になるなんて思わなかった。

　彼女自身が自分の感情をコントロールしきれていない。起こっているはずなのに、その瞳からはボロボロと涙をこぼす。

「貴女は私なんかに恋をして……私なんかを救おうと、全てを投げ出して……貴女は本当にバカです！　大馬鹿野郎です！　ネジ様の気持ちをお考えになったこともないんですか！」

　ネジの気持ち。そんなもの、いくらでも考えてきた。

　けど、わからないんだ。アイツが何を考え、何を望むのか？　それが俺には皆目検討もつかねぇ。

「私なんかを救う暇があるのなら、貴女自身を救ってください……」

　フレデリカはそれだけ吐き捨てると、何処かへ走り去っていく。俺は彼女を追いかけようにも、体のどこにもそんな力は残されていなかった。

　俺は空っぽの手を再び強く握りしめる……。今度は掴めたと思ったのに、俺の誰かを救おうと伸ばした手は、また空ぶってしまったのか？

「なぁ……親父……やっぱ俺は親父みたいになれないのか」

　親父の背中どころか、真っ当な凡人の背中だって遠くに見える。

　小さい頃は、立派な大人になれるって信じていたのに、なんだよこのザマは。ここに立っているのは、クズな俺だけじゃないか。

　どこで間違えた？　どこを正せば、俺は真っ当になれるんだ？

　誰か答えを教えてくれ。誰でも良いから、俺のこの空っぽの手に何かを掴めるだけの方法を教えてくれよ。頼むからさ。

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