EP14 【OUTBURST】(前編)

 さて、こんな時でも俺の親父ならド派手に一発逆転するんだろうが、残念ながら俺にそれだけの力がない。


 魔法を使うには二つの才能がいるんだ。


 一つは魔力の総量。コイツはありすぎても困ることがない。これがあれば、長期戦だろうと、大魔法となんでも〝発動すること〟ができる。この才能はほとんど血縁で決まるのだから、両親に恵まれた俺に魔力の総量で敵う奴もいないだろう。


 だが先にも言った通り、魔力量は発動するだけの力であって、それを制御できるかには次の才能が関わってくる。


 もう一つの才能は魔力の形の維持。魔力は形を定めることで、より的確に用途に適した効力を発揮する。マイナスのネジ穴にプラスドライバーを刺しても、回せない。マイナスのを回すにはそれに適したマイナスのドライバーを使用しなくちゃならないのだ。魔法もこの例えとよく似ている。


 魔法陣はネジ穴なのだ。魔法陣に的確な形の魔力を流し込むことで初めて、魔法は本来の機能を発揮する。


 これに関してネジは抜群に上手い。ネジの発動した保護魔法(プロテクト・マジック)は戦争で使われるような散弾魔法を防いだ。本来なら散弾魔法(ショットガン・マジック)は対弾魔法(アンチショット・マジック)でしか防げない筈なのに、ネジはそれを才能で可能にしているのだ。


 そして、俺はこの才能が絶望的に欠落していた。大きすぎる魔力は形を変えるだけでも苦労する。それを維持して魔法陣に流し込むのは尚のこと。


 だから、俺が今ここで〈プロテクト・マジック〉を発動させても、ネジのような防御力を発揮することはできない。二人で弱点を補うとか、そんな劇的でフィクションみたいな解決方法も、俺らとは無縁だ。


「諦めんな! スパナ・ヘッドバーン!」


 ネジが俺の名前を呼んでいる。


 じゃあ、テメェならこの状況をどうするか、是非教えてもらいたい。


〈というか、スパナ……さっき、観客を散々煽るだけ煽っといて、すぐに諦めるとか情けなさすぎでしょ。幼馴染として恥ずかしいわ!〉


〈うっせぇ! 余計なお世話じゃボケェ!!〉


〈うるっさいのはアンタよ! 私の知ってるスパナはこの程度、ピンチですらないんだから!!〉


 フェンスの向こうでは、ネジが俺をじっと見つめていた。このバカは、真っ直ぐ俺を見てやがる。


 他の連中が蔑みの視線を送る中。コイツの瞳だけが、一方的に蜂の巣にされている俺を、捉えて離さない。


「アンタ、散々大口叩いたわよね。なら勝ちなさい! 勝ってスパナが強いってことを証明するの!」


「だから……無理なものは無理なんだよ!!」


 右目が吹き飛んだ。視界の片方がブラックアウトし、闇に落ちる。


「諦めんなって言ってるでしょ! 二度も同じことを言わせんな! 私はアンタを信じてる。スパナ・ヘッドバーンを信じてる。────だから、アンタも私の期待に応えなさい!!」


 はぁ……めんどくせェ。お前は、いつも暴論が過ぎるんだよ。


 大体、そんなズルい言き方されたなら、俺だって応えたいと思うじゃないか。


「やっぱり俺はお前が大嫌いだ!!」


〈プロテクト・マジック〉、発動。


「ふん、今更、防御したって無駄なんだよ!!」


 そいつはどうかな? なんて格好つけて言ってみたいが、実際はそうだ。


 俺の身体はほとんど、限界に近い。攻撃もできて、あと一発。それ以前にこの質量の雨を防ぎきれる気がしねぇ……


「どうした? 防御が薄くなってるぜ」


「ッッ……この低能ゴリラがッ!」


 魔力の形を保て! ってことくらい頭ではわかってるんだ。けど、俺のセンスじゃどうにも感覚が掴めない。今日まで出来なかったことが、突然できるなんてことはありえないんだ。


 デストロイヤーが三発目の鉄球を取り出しやがった。


〈クソっ……やっぱ、魔力の制御が!〉


〈それで良いの……聞いて、スパナ。無理に型に嵌めることなんてない。アンタ自身が、昔は型に嵌るような人間じゃなかったじゃない。大胆不敵で何処までも真っ直ぐ。それがスパナなんだから!〉


 コイツは俺を信じると言った。


 なら、俺も今くらいはコイツを信じてやろう。


「どうなっても知らねぇからなッ!」


 ネジは魔力を型に嵌めるなと言った。そんなことをすれば、魔法は暴発するに決まっている。


 けど、お前が言ったんだからな。ありったけの魔力を保護魔法の魔法陣に注ぎ込んでやる!


〈それでいい。敢えて、アンタのそれを魔法として名付けてあげる……それは暴発魔法(アウトバースト・マジック)よ!〉


 俺の大量の魔力を注ぎ込まれた保護魔法は均衡が崩れ、倒壊。そして──轟音と共に爆ぜる!


「なっ……なんだ、今の⁉」


 暴発した保護魔法はその衝撃で弾丸の威力を相殺する。


 グレゴリーの野郎は何が起きたかわからないという面だ。実際は魔力の流し過ぎで魔法陣が暴走した挙句、爆発しただけなんだが。


 ただ、コイツは使えるかもしれねぇ。


「イチかバチかのギャンブルほど、そそるものもねぇよな!」


 俺はデストロイヤーとの距離を詰める。コイツの身体にも、何かしらの魔法陣が仕込まれているはずだ。


 俺はデストロイヤーの身体に触れて、全身の魔力を流し込んだ。


 本来、敵の魔法陣に魔力を流したところで魔法が誤作動する程度だが、この場合なら違う。


「やってやりなさい、スパナ!!」


「おうよッ!」


 発動、〈アウトバースト・マジック〉。ド派手な花火になりやがれッ! 

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