EP37【幼馴染か、それとも初恋の人か?】(前編)
「お疲れさま」
ネジが俺の指に提供糸(〈コード〉)を結びつけ、魔力を流してくれた。ネジの社員達の悪酔いに付き合わされて、約一時間半、ようやく俺は酔い潰れた彼らから解放され、ネジの隣で休んでいる。
「どう? 可愛いうちの社員達は」
「お前のクソ社員達は皆、二日酔いになってゲロを吐き散らかせ」
「ふふ。結構、酷いこと言うのね」
当たり前だ。あの連中は挙句の果てに〈魔導人形(ドール)〉である俺にまで酒を飲ませたのだ。
〈ドール〉の内側は精密部品が密集してるってのに、それに液体を流し込むとか頭イカれてんだろ、あの連中。アルコールハラスメントもここに極まれりだな。
「どっか壊れちまったら、クルスくんに絶対怒られる……」
「あの子、怒ると案外怖いわよ。普段素直で大人しい分、そのギャップも相まってね」
「マジかよ……つか、クルスくんは? さっきまでパーティいたよな?」
「あー、彼なら確か、パイルバンカーの最終調整をしたいからって帰っちゃった。だから、精々バレないように壊れた個所を自分で直すことね」
はは……今夜は徹夜確定か。
「つかさ、ネジは何してたんだよ」
このパーティの主催者であるはずの彼女は最初の挨拶をして以降、気配を消していたのだ。
「私なら、さっきまで仕事してたわよ」
「は……?」
ネジはそれが当然のように応えた。コロシアムでのエキシビション・マッチに必要な細かな手続きや、俺の身体に仕組んだ魔法陣の最終確認。その他、金融業のことや、レイドル孤児院のこと。それらの書類整理を、喧しい店の端っこでやっていたという。
「なんで、わざわざそんな面倒なことを! つーか。そんな雑用、お前を慕う社員たちが喜んでやってくれるだろうに」
「だって、この宴席は社員たちのガス抜きも兼ねてるんだもん。アンタを〈ドール〉にすることで、更生を促し借金を返させるプランはイレギュラー中のイレギュラーだった。だから、反対する声だって普通にあったし、今日まで皆に迷惑もかけた。だから今日の一席で少しでも鬱憤を晴らせたらいいんだけど」
「ふーん……ガス抜きねぇ」
社員達は酔っても、ネジのことを自慢してばかりだった。真っ直ぐな社長だと。
俺はネジに対して社長というか、人の上に立つ人間というか……そういう雰囲気を感じない。いざとなれば脳筋思考だし、無謀なまでにガムシャラで、酷くワガママな性格をしているとさえ思っている。
けど、コイツはそういう不器用な気遣いが出来るからこそ、慕われてるんだろうな。
「ふふ、あのネジがねぇ」
「何よ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「いや、ネジが成長したと思うと嬉しくて」
バシっ! と腹に拳が入れられた。
「これはアンタの成長を祝う会。私のことは別にいいじゃない」
ネジは顔を赤くしていた。可愛い照れ隠しだ。
褒められたんだから素直に受け止めればいいのに、そういう所もネジらしい。
「ったく、スパナの癖に調子に乗らないで欲しいわ……フレデリカちゃん、私にも葡萄酒を一杯だけ頂戴」
「はい。畏まりました、ネジ様」
注文を受けたフレデリカが戸棚のボトルに手を伸ばした。
だが、生憎とボトルは空だったようで、在庫はここから少し離れた倉庫にしか置かれていない。
「申し訳ありません、ネジ様。少々、お待たせしちゃいます」
「あら……それなら別に水でいいわよ」
「いえ、すぐに取って来ますね! ネジ様にも、スパナ様の好きな葡萄酒を是非、味わってもらいたいので」
フレデリカは笑顔でそういうと、メイド服の上にコートを重ね着して、店の裏へと引っ込んでいった。
ネジは彼女を見送ると、くすりと笑みを漏らす。
「ふふ、やっぱり良い人よね、フレデリカちゃん……いや、さんかな?」
「……ん? ……どういうことだよ?」
彼女の口調はまるで、年上の人間を敬っているようだった。
「いや、根っからの善人っていうのはフレデリカさんみたいな人を言うんじゃないかなって思って」
「〈ドール〉なんだから、善人も悪人もないだろ。そんなの所持者が魔導人形にどういう命令をするか次第だ」
「ふふ、それは彼女がただの〈ドール〉ならの話でしょ」
「なんか含みがある言い方だな」
「含みがあるも、何もフレデリカさんはアンタと同じ元人間よ」
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