EP11 【ホット・ロッド・スタート】

「ははは……もう笑うしかねぇや」


 俺はネジを恨んだ。だってそうだろ? コイツはデートと称し俺を裏闘技場まで連れてきて、見るからにヤバいチャンピオンと戦えと言うのだ。


 リングの上に無理やり投げ込まれた俺に逃げ場はない。リングを囲むフェンスにも強力な保護魔法(プロテクト・マジック)が掛けられている。


「ネジィィ……この恨みは忘れねぇからなぁ!」


「身体、慣れてきたんでしょ。なら戦えるんじゃない?」


「無理だ! つか、聞いてねぇぞ!!」


「言ってないもん。言ったら逃げるでしょ?」


 この魔女め……自分は安全なフェンスの外側にいるから、俺のことなんて知ったこっちゃないと言う面構えだ。


「つか、俺を更生させる云々はどうしたんだよ。ここで身体を壊されたら、俺は死ぬんじゃないのか?」


「死にはしないわよ。ただ身体を失った魂は永遠に現世を彷徨うだけ」


「ほぼ死ぬようなもんじゃねぇか! やっぱ俺帰る!」


 フェンスをよじ登ろうと指をかける。だが、ネジはそれを許さない。指を二本突き立て、俺に向けた。魔法を発動する前の所作だ。


「制限魔法(コントロールマジック)を忘れたのかな?」


「うっ……この外道め!」


 俺の身体に刻まれた術式が、ネジに逆らうことを許さない。俺はリングに戻るしかなかった。


「おい! そろそろ始めないか? それともビビってんのかよ?」


 グレゴリーが立腹なご様子だ。なかなか闘う意思を見せないから、試合が始まらず苛立っている。それは観客も同じようで。俺が逃げればブーイングの嵐程度じゃ生まないほどに殺気立っていた。


「にしても嬢ちゃんの魔導人形(ドール)はおもしれぇな」


「あら、そう?」


「まるで人間みたいだ。表情の情けなさや、小さな震えなんて。本物みたいだぜ」


 へいへい、震えてて悪かったすね。こっちとら元人間なんですよ。


「俺の見たところ、かなり良いパーツを使ってるな。よし、決めた! 試合に勝ったら、その〈ドール〉を俺によこせ」


「ええ、良いわよ」


 ネジはあっさり承諾した。


 いや、良くねぇわ! あんな下品なゴリラの所有物になるくらいなら、闇金魔女のところの方がよっぽどマシだ!


 俺は怒りが爆発しそうだった。確かに、借金のある俺が悪い。けど、なんの予告もなしにリングに放り込まれて、ルール無しのデスマッチを強要させるのは、横暴がすぎるだろ!


「ネジ! お前、良い加減にしろよ! さっきから勝手になんでもかんでも進めやがって!」


「ちゃんと考えがあるの。スパナは黙って相手を見る」


「無茶言ってんじゃ、」


「大丈夫。私はスパナが勝てるって信じてるから」


 コイツはいつもこうだ。俺に何を期待してやがるのか?


「スパナ。アンタなら出来る」


「お前、ほんと最低だわ……いつか地獄に落ちるぞ。つか、落ちろ」


「ここも地獄みたいなもんでしょ?」


 どうやら、やるしかないみたいらしい。


 これで勝てば借金を返せるんだろ。だったら、こんな無茶をするのはこれで最後なんだ。


「ふぅっ……」


 空気を吸い込み、体内の魔力の流れを安定。関節も軽く解して、覚悟を決めろ。

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