EP20【魔獣退治のお仕事】(前編)
ネジは流星号で空へと退避した。
クルスも植物魔法(プランツ・マジック)で木々を紡ぎ合わせ、強固なトーチカを作り、その中へと立て篭る。ただの木々でも保護魔法(プロテクト・マジック)で強化すれば、そう簡単には崩されない。
二人とも、迫る脅威に備えたのだ。けど、俺は? 空も飛べなきゃ、木々も操れねぇ俺はどうすんだよ⁉
「ゴォォルァァァァァァァァァ!!!!」
ソイツは咆哮と共に、目の前の大木を根元からへし折ってみせた。大きさにして三〇メートルを超える巨体を一言で評するのなら「動く屍」だ。
魔獣の中には死後も魔力が残り続け、怨念によって骨だけになった肉体を動かし続ける死に損ないがごく稀にだが、出没する。
〈ネクロ種〉というカテゴリーに該当されるのだが、コイツの場合元になった種が厄介過ぎた。
「ははっ……マジかよ」
親父が小さいころの俺に語ってくれたのだ。「俺でも食われかけたことがある」と。
雄々しい巨大な翼に鋭利な詰めを合わせもつソイツの名は「ドラゴン」────最強と名高い魔獣だった。
「今回の仕事ってまさか……ネクロ・ドラゴンの討伐じゃねぇだろうな⁉」
ふざっけんな! ただのドラゴンですら、討伐には十人のパーティを組む必要があると言われるほどだ。そんなドラゴンの〈ネクロ種〉を素人だけで倒すなんて自殺行為以外の他でもない。
「こんなの仕事じゃねぇ、ただの死事だ!」
「けど、やるしかないでしょ!」
安全圏から物を言うんじゃねぇ!
「畜生ッ! 最悪だ!」
足元に魔法陣を作り、暴発魔法(アウトバースト・マジック)を発動。俺はその爆風を利用し、十メートル前後の距離を取った。とにかく思考を整理しよう。
「焦るな……ネジのバカはいつも俺に命懸けの仕事を持ってくる。けど、前回だって突破口があったろ。今回もそれを考えるんだ」
俺の一番の武器はなんだ? 魔力の提供過多による一撃必殺の〈アウトバースト・マジック〉だろ。
あの爆発の威力があれば、最固の素材と名高い竜骨だろうと、風穴を穿つことが出来るはずだ。
「ネジ! お前の魔力も貸しやがれ!」
「分かってる!」
ネジが提供糸(コード)を伸ばした。俺はその先端を自らの全身にきつく結びつける。
「ありったけの魔力を流せ。お前とタイミングを合わせて、最大の暴発を起こす」
「オッケー。任せなさい」
よし、作戦決定。
俺の足裏には加速魔法(アクセル・マジック)の魔法陣も浮いた。これで飛べってことだろう。
勝てるだけのカードはもう俺の手札に揃ってんだ。乾いた口元を舌で拭いながら、タイミングを図る。
「ッッ!」
ネクロ・ドラゴンが迫ってくるのに合わせて、俺はスタートした。
腹の下へと滑り込み後ろ足に蹴りを入れてやる。まずは硬さを図るための小手調だ。
「ッッ……」
竜骨の密度は尋常ではない。アダマンタイトやオリハルコンに勝るとも劣らないといえば、その脅威が伝わるだろうか。
やはり、その固さは流石なもので、蹴りを入れた俺の脚の方が砕けた。そのせいで、一瞬バランスを崩すも、反動を利用し体制を安定。そのまま尻尾の方にかけてネクロ・ドラゴンの腹下を抜けてみせた。
「固い……けど、砕けない固さじゃねぇ」
俺は改めてネクロ・ドラゴンと対峙した。
コイツも俺の余裕な表情を見て、何かを察したんだろうな。周辺には魔法陣が展開された。
ドラゴンが使える魔法で一番厄介なのは獄炎魔法(インフェルノ・マジック)だ。どうする? こんな所で使われれば、大火事は避けられねぇぞ。
「させませんっ! 〈プラント・マジック〉!」
森の木々がネクロ・ドラゴンに巻きついた。例え引きちぎられようとも、次々迫る木々がその巨体を抑え込んでみせる。
「今です! スパナさん!」
「ナイスだ、クルスくん!」
俺は拳を強く握り込み、構えて魔力を集中……あれ? どうにも魔力の流れが悪いような。
俺は自分の右腕に不調があるのかと、目を遣った。俺の腕は格闘用に強化された競技用人形(ファイティング・ドール)の腕で……って、その腕はさっきズッポ抜けだろ!
〈スパナ! どうしたの!!〉
〈どうしたも、こうしたもねぇ!! 全部お前のせいだ!!〉
そう。失われた俺の腕には、応急処置でクルスが付けてくれた簡易腕がはめられていた。これでも一応は〈アウトバースト・マジック〉は発動できるが、その威力は格段に落ちてしまう。
竜骨をぶち抜くには、てんで火力が足りていないのだ。
「大丈夫です! スパナさん!」
トーチカから顔を出したクルスくんが堂々と宣言する。
彼だって、この状況が如何に不味いかは分かっている筈だ。木々によるネクロ・ドラゴンの拘束だって長くはもたない。
「無理だ! この腕じゃ威力が足りねぇ!」
「なら、これを! まだ未完成ですが、とっておきです!」
クルスくんがトーチカの隙間から何かを投げ渡した。彼はそれがこの状況を覆せる鍵だと確信しているのだろう。
だからこそ、その口元はニヤリと吊り上がっていた。
何かを信じられるヤツはきっと、こんな顔をするんだろうな。その笑顔はネジが俺を信じるというときのものにそっくりだった。
「へっ! お前のことも大嫌いになりそうだ、クルスくん!」
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