EP46【ジーク&ドラグニルは絶対的である】(後編)

 俺の中には一つの慢心があった────〈アウトバースト・マジック〉はネジの発想と、俺の持つ膨大な魔力量が噛み合って、初めて成立する魔法だと……俺たちだけしか使えない魔法だと、思い込んでいたんだ。


 だが、〈アウトバースト・マジック〉の仕組みは魔法陣に過剰の魔力を注ぎ込むことで暴発させるというシンプルなもの。


 だから俺と同じように魔力量の多い半魔族であるジークならば、この魔法を操ることも容易であって────


 ◇◇◇


「がぁぁっ!!」


 全身に走った凄まじい衝撃が、俺の思考を強引に中断してみせる。


「スパナッッ!!」


 うぐッッ……心配はいらねぇよ。カウントが始まるのは全身が地面に触れてからだ。なら、ここで踏みとどまることさえ出来れば、


「まだだよ、スパナくん」


 背中越しに感じるのは、熱と気迫だ。


 ジークが展開した魔法陣で俺の周囲をぐるりと取り囲む。しかもその全てに、臨界寸前までの魔力が注ぎ込んでだ。


「〈アクシデント・ガンディスチャージ・マジック〉」


「くッ……〈プロテクト・マジック〉ッッ!!」


 ネジが魔法によって俺の強度を高めてくれた。けれど、その程度では全方位から迫る爆ぜる暴発を完全に防ぎきることもかなわない。


「がぁっっ!?」


 俺の身体は熱と衝撃に弄ばれ、今度は左腕が引きちぎられた。


「そろそろ、決めさせてもらうか! いくぞ、ドラグニルッッ!!」


 ドラグニルの瞳が赤く燃える。コイツは爆風の中を突きって来たのだ。


 両腕を壊された俺に防御の手段なんてあるわけもなく、ドラグニルのブレードをその身で再び受けることしかできなかった。


 回避しようとしたって、ジークの起爆する〈アクシデント・ガンディスチャージ・マジック〉がそれを許さない。


 序盤に際限なく魔力を使い過ぎたことも今になって効いてきた。俺が同じように〈アウトバースト・マジック〉で迎撃を試みるにしたって、身体に残留する魔力総量で押し負ける。


 ならば、すこしでも次のラウンドに向けて力を温存すべきか。


「ははっ……さすがはコロシアムの絶対王者様ってか?」


 きっとジークは、少ない情報から予め俺たちが選ぶであろう戦法や手札も読み切った上で、第一ラウンドがこの展開になるよう試合を進めてきたのだろう。


「それじゃあ僕らが先制させて貰おうかッ!」


 それに比べて俺はどれだけ慢心していたのだろうか。自分の思慮の浅さが心底嫌になりそうだ。


「あぁ、もってけよ。クソ野郎」


 ドラグニルが〈イージスの盾〉を振り上げてみせた。あの質量でぶん殴れれば、ダメージはブレードの比じゃねぇな。


 頭部に振り下ろされたその衝撃と共に、俺の意識は完全に闇の底へと落ちるのだった。

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