EP45【決戦前奏】前編

「細部調整完了。関節部コネクト。魔力量及び伝達系チェック」


 俺は声に出しながら、新たな身体の状態を確認する。クルスくんが突貫工事である程度は動けるよう、S200・FDの改修を済ませてくれたのだ。


「どうですかね、スパナ様」


「良好だよ、クルスくん」


 色んなコネを使ってパーツを集めてくれたらしいが、それを一晩で組み上げ、俺に合うように調整できるクルスくんの手腕はやはりピカイチ何だろう。


 まだ、慣らしの足りない関節だから少し硬いが、その分は魔力伝達期間のスペックを底上げしてもらった。


 簡単に言えば、魔力の流れを早くしたから短いスパンで魔法を連発できるって仕組みだ。


「んじゃ、今日は一日頼むぜ」


「えぇ、僕はスパナさん専属の魔導エンジニアですから! 今日の試合が無事に終わるまで、全力でサポートしてみせます!」


 ここはパグリス中央に建造されたコロシアムの魔導人形(〈ドール〉)用の控え室だ。ただ、「控え室」というのはあくまでも名義上であり、人間の控え室のように、腰掛けるソファがあるわけでも、お茶を淹れるためのポットが備え付けられている訳でもない。


 代わりにあるのは作業台と工具類だけ。控え室というよりも、整備室といった方が適切だろう。


「では、健闘を祈ります」


「おう、任せとけ!」


 俺はクルスと拳を重ね合い、部屋を後にした。


 外で待ってくれていのはネジだ。


「思ったより調子も良さそうじゃない」


「あぁ、今日は勝ちに行くんだからな」


 俺はネジに感謝しなければならない。彼女は今、俺のワガママを聞いてくれている。


 手足を新しいパーツに換装したって、俺の胴体には未だダメージが蓄積したままであった。


 今日のエキシビション・マッチだって勢い余って、この身体がぶっ壊れてしまうかもしれない。それに賞金を手にできたとしても、返済生活が終わるわけじゃない。


「ハッ……!」


 我ながら分の悪い賭けに臨むようになっちまたなぁ、と俺は苦笑してしまう。


 こんな悪条件の賭け、以前までの俺ならば絶対に挑むこともなかったのだろう。


「どうしたのよ、妙にニヤニヤして」


「別に何でもねーよ、それよりもネジ、早く行こうぜ!」


「わかってる、派手にやってやりましょう!」


 俺は小指に提供糸(コード)を巻き付け、ネジと繋がる。身体の中で互いの魔力が混ざり合い、火照っていく感覚をいつも以上にはっきりと自覚できた。


 ただそれ以上にもっとハッキリ伝わってくるものがある。グツグツに煮えたぎったお互いの闘志だ。


〈〈────さぁ、勝つぞ!〉〉

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