EP45【決戦前奏】後編
主人と〈ドール〉が技と技術、そして魔法の三つを競い合うコロシアムでの人形武踊大会は、パグリスでも年に一度の大きなイベントだ。だから本戦前の前座であるエキシビション・マッチの時点で辺りは相応の盛り上がりを見せていた。
物珍しさからこの時期に合わせて訪れる観光客だって多いし、コロシアムの周りには名物料理の屋台も出ている。空には盛大に花火が打ち上がり、コロシアムの内側では運良く観戦チケットを手に入れたラッキーマン達が試合の始まりを今か、今かと待っていた。
『お立ち会いの皆様! 本日の舞台にようこそお越し頂きました! 本日、我らが王者、ジーク&ドラグニルに立ち向かうチャレンジャーは巷で噂の働き者コンビとのことです。さぁ、そんな二人がどんな奮闘を見せるか非常に興味深いですね』
実況席では拡声魔法(メガホン・マジック)を介して司会者が客席全体に呼びかけていた。
「だってさ、スパナ」
「茶化すなよ……にしても、我ながら働き者って肩書きはどうにも似合わねぇ」
「ギャンブルクズって言われるよりはマシね」
ジークはコロシアムの真ん中で静かに俺たちの入場を待っている。
そろそろ試合開始の時間も迫ってきたようだ。俺とネジは司会者が俺たちの名を呼ぶと同時にステージに現れればいいわけで……
「ねぇ、スパナ! あれって!!」
突然、ネジが打ち上がった花火の方を指差した。
色鮮やかな花火を黒い魔力が縁取っているのだ。なんだか凄く嫌な予感がするぞ。
打ち上がった花火を黒い縁が無理やり押さえつけ、理屈も抜きにその形を歪曲させてみせる。「SUPAN(スパナ)A&NEZI(ネジ) FIGHT(ファイト)!」と。
花火は俺たちの名前へと書き換えられたのだ。そして俺は、空中にその美しい翼を広げた彼女を見つけてみせる。
「フレー! フレー!! スパちゃん!! ネジちゃんもファイトー!!」
「……あれって……スパナのお母さんよね」
「……僕はあんな人知りません」
「こら! 現実から逃げるな!」
本当にあんな人知らないって言いたかった。けど、あれはどう見ても俺のお袋じゃねぇかァ!
「勝て、勝てスパちゃん! 負けるな、負けるなネジちゃん!!」
お袋、ノリノリである。お手製のポンポンを両手に嵌めて、空中でチアダンスのパフォーマンス披露してやがる。
国民というか、全世界的にみれば、親父と隠居暮らしをしているシロナ・ヘッドバーン姫が降臨するというサプライズに感激しているのだろうが、身内からすれば恥でしかない。
「親バカァァァ!!」
俺は身内の恥を払拭すべく、お袋の展開した魔法陣に魔力を流し込んだ。
「ちょっ!! アンタ、何やってんの!!」
「うるせぇ!! 流石にこれはキレていいやつだ!! 暴発魔法(アウトバースト・マジック)ッッ!!!」
いっそ、空の果てまで吹っ飛んで欲しかった。
だが、彼女は腐っても英雄。腐り切ったとしても、俺のお袋。保護魔法(プロテクト・マジック)+黒魔法(ブラック・スペル)から成る黒い防御壁で爆風を防ぎ切ってみせた。そしてお袋は、表情一つ崩さず口だけを動かす。
「頑張ってね」
読唇術なんて心得ない俺でも、お袋の言いたいことはわかった。
「ったく……もっと普通にそういう言葉を掛けやがれってんだ」
尚、チケットを手に入れ損ねた彼女が、後から警備員に連れ出されてしまったことは目も当てられないので、ここに伏せて置こう。
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