EP20【魔獣退治のお仕事】(後編)

 なんとか、火を消した俺たちはようやく落ちつけた。そのあたりの木々に燃え移らなかったのは、不幸中の幸いだろう。


「はぁ……今になって疲れてきたぞ」


「そうね」


「うん。今回は八割近くお前のせいだからな」


 箒から振り落とされたことに始まり、ネクロ・ドラゴンとの戦闘。最後には小火騒ぎときた。


 流石の悪女様も反省したのか、小さく「ごめん」と謝った。こりゃ、明日の天気は槍かな?


 ただ、悪いことばかりでもない無い。俺たち三人は〈ギルド〉の力抜きで、ネクロ・ドラゴンを討伐したのだから分け前が変わってくる筈だ。


 元々の仕事は討伐料の一八〇万ペルの二対一をさらにネジと分割して三〇万ペルだったが、討伐料を俺たち三人で分け合うことになるから六〇万ペルだ! 


 もらえる報酬が当初の倍額。こんなにおいしすぎる話も滅多にない。


「ネジ! 六〇万! 六〇万の返金だ!」


 この六〇万ペルが加われば、俺の手持ちは約六二万ペル。借金返済にもぐんと近づいたな。 


 どうやら人間の身体に戻れる日も、そう遠くはなさそうだ。


「何言ってんの? 今回の収入は三十万よ。最初に話したじゃない」


 いや、いや。これだから、バカな奴は困るなぁ。まったく。


「〈ギルド〉の人間が立ち合っていないんだから、俺たちの貰う額は一八〇万を三人で分けて六〇万だ。そうだろ……そうだって言ってくれ!」


「いや、だから、その〈ギルド〉が立ち合ってるのよ」


 ネジはクルスくんを指した。


 クルスくんも申し訳なそうに頭を下げる。


「まさか……」


 いや、気づける要素ならちゃんとあっただろう。


 一体どうして、クルスくんが森の中を理由もなく歩いていた? 


 一体どうして、邪魔にしかならない俺の武器腕を持ち歩いていた? 


 そもそも、今回の手伝いの依頼を貰うにはネジが〈ギルド〉の誰かと通じてなくちゃ、筋が通らない。なら、ネジは組員の誰と繋がっていた? 


 その答えを出すのは凄く簡単だ。クルス・アルカロイドが〈ギルド〉に所属していれば全て筋が通ってしまうのだ。


「実は僕が、二人に手伝いを依頼したんです」


「嘘だ! 嘘だって言ってくれよ、クルスくん!」


「諦めなさい。事実なんだから!」


 クルスが俺に見せたのは〈ギルド〉の証であるバッジと魔獣狩りの免許だった。酷い追い討ちだ。


 俺の目の前から六〇万が消えてゆく。行かないでくれと、手を伸ばしても、イメージの紙幣たちは指の隙間から逃げ出して、空の向こうへと溶けていった……。


「あれぇ……おかっしいな……なんか目から水が……液漏れかな? あは、あはは」


「日取り三〇万でも十分でしょ」


 確かに、ネジの言う通りさ。日取り三〇万ペルでも十分な大儲けだ。けど、そういう問題じゃねぇ! 


 一度見えた希望が消えていく。その、虚しさがコイツらにはわからないのだろう。


「やっぱり、お前らのことなんて、大嫌いだァァァ!」

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