第19話 亜緒依ちゃんいうて、高校の友だち

 亜緒依あおい朱実あけみとで、道に散乱していたその下着をとりあえずスーツケースに押しこんだ。

 ファスナーを閉めようとしたが、それが完全に使いものにならなくなっている。

 いまはスーツケースの口が開かないように、朱実が膝をついて両手で押さえている。そうさせておいて、

「ちょっとそのまま待っとり」

と言い、亜緒依が小走りで横のスーパーに行った。

 何をしに行ったのだろうと思って見ていると、亜緒依はすぐにビニールのひもを借りて戻って来た。

 紐で二重三重にスーツケースを巻いて、縛る。それをもとどおりにカートにくくりつけた。

 「だれ?」

 亜緒依がスーパーに紐を返しに行っている間に、ひな先生が朱実に小声で聞いた。

 「亜緒依ちゃんいうて、高校の友だち」

 「ちゃん」をつけて呼ぶと何かくすぐったい。

 「そうか。朱実ちゃんの学年、もう高校生やねんね」

 そこに亜緒依が帰ってきたので、ひな子先生と朱実との話はそこで終わった。

 亜緒依は、ひな子先生があいさつしようとするのにもかまわず、ひな子先生がひっくり返したほうのカートの取っ手をがしっと握って宣言した。

 「これはわたしが引っぱって行くから。朱実はもう一個のごろごろを持って」

 「え、いや、そんなん」

 ひな子先生が言いかける。亜緒依は相手にしない。

 「それで、先生はほかの鞄持って。さ、さっさと行くで」

 「ああいう子やから、ついていきましょ」

 朱実が先生に笑って言った。

 「行き先は先生の家でいいですね?」

 「うん、でも、知ってんの、あの子?」

 「さっき教えたから」

 そういって、朱実も謎めいた笑いをひな子先生に見せ、亜緒依に指図さしずされたとおり、もう一つのカートを持ってさっさと歩き出した。

 辰屋たつや満生まんせいどうのショーケースの中の三色だんごパフェが目に入った。

 電球の照明を浴びてあちこちが小さく輝いて見えて、艶々つやつやしておいしそうだ。

 まあ、また食べる機会もあると思って、朱実は前を通り過ぎた。

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