第8話 さっさとぜんぶ言うて楽になり

 休憩所からは、あずさの駅のあたりや、その向こうの高速道路や大きい川沿いの一帯だけではなくて、遠くの市外の中心地のほうの高層ビルが、重なり合いながら、明るい空を背景にシルエットになって見える。

 霧や雨でない限り、ふだんからよく見えるのだけど、今日は正月だけあってスモッグがなく、空が澄んでいるのかも知れない。いつもより鮮やかな影絵になっている。灰色に青が少し混じったような色合いで、白っぽい背景の空に浮き上がって見える。

 「ええとこに住んでるな、朱実あけみて」

 言って、亜緒依あおいはくしゅっと笑う。

 こういう顔になると亜緒依はかわいい。まるで違う人になったみたいだ。

 朱実もつられて笑った。

 「さっきは遠くて不便なとこに住んでる言うてたくせに」

 「それはそうや。遠くて不便なんも事実やろ? でもええとこやん」

 では、亜緒依の家はどうなのだろう?

 亜緒依は、腰のところにたこ焼きの発泡スチロールのケースを持ったまま、うーんと斜めに背伸びをした。

 のんびりと言う。

 「ここからやったら、学校はもちろん、わたしのうちのほうまで見えてるんやろな」

 「あっ」

 朱実ののどから声が漏れた。

 亜緒依はけげんそうな顔で朱実をのぞきこんだ。

 「何よ、いきなり、あ、て。びっくりするやん」

 あまりびっくりしたような声でもない。

 「あぁ」

 朱実は振り向いた。亜緒依に笑って見せる。

 「いや、なんでもないよ、て言うてごまかそうとしても、亜緒依はごまかされへんよなぁ」

 「なんよ、その持って回った言いかた」

と、また丸いたこ焼きを楊枝ようじして鼻の前あたりで持った、そんなことしてなければかっこええはずのおねえさんに言われてもなぁ。

 そう思って返事せずにいると、亜緒依がそのまま続けて言った。

 「言いたいんやろ、朱実は。それやったらさっさとぜんぶ言うて楽になり」

 言ってたこ焼きを口のなかに入れる。

 冷ましたつもりでもまだなかは熱いで、と言ったほうがいいかなと思いながら、言わないで待っていたら、亜緒依はきゅっと顔をしかめてつらそうな顔をした。

 言わんこっちゃない……。

 そこで、朱実はまた足を上げて両脚を揃えてぶらぶらさせる。

 「いや、ずっと、毎年年賀状くれる人で、くれてへん人がおるなぁって気にかかってたんや。それをいまので思い出した」

 「ふぅん」

 喉のほうが熱いのだろう。亜緒依の言い返しかたがぞんざいだ。

 またしばらく経ってから、

「で、だれ?」

と続ける。

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