第3話 ほんとに信じて言うてる?

 「なんや、正月からだらだらして」

 訪ねて来たのは戸上とのうえ亜緒依あおいだった。

 朱実あけみの同級生で、何かよくわからないけれど、友だちだ。

 何かよくわからない、というのは、亜緒依と朱実では普通に考えると接点が何もないからだ。

 亜緒依は大手家具チェーンの会社を経営する家の娘で、朱実はおお晦日みそかまで働いていないといけない印刷会社の人の娘、派手好きの亜緒依と派手なことに興味のない朱実で、趣味とか会話とか、そういうものが成り立つはずがない。

 成り立つはずがないと朱実も思うのだが、成り立っているからふしぎだ。

 「ええやん」

 歩きながらそっけなく言ってやる。

 「正月なんかだらだらするためにあるんやろ」

 亜緒依は、ぴかぴかするエナメルの黒いブーツに赤のタイツを穿き、フリルのついた黒のスカートに白い清楚そうなシャツに黒の上着と黒のコートを着て、赤いリボンのついた、寒さを防ぐにはまず役に立たなさそうな黒い帽子をかぶっている。服装を説明するだけでたいそうだ。

 朱実はというと、こたつに入っていたときから着ていた白いセーターに、これもふかふかの白いジャンパーを着て、やっぱり白いマフラーを巻いて、赤いスカートにスニーカーを突っかけてきただけだ。

 ほんとに格が違うと思う。

 だいたい歩いているときの足音が違う。

 亜緒依に上がってもらって、お母ちゃんの作ったカフェオレを飲んで温まってもらって、それで、その母親に

「うちにいてもろてもしょうがないから、初詣でも行って、なんかおいしいもんでも食べて来ぃ」

と言われて、亜緒依といっしょにお出かけだ。

 べつに不満ではない。退屈していたところなのだから。

 「正月て、これからの一年に向けて、しっかりやらな、って心を引き締める時期やろ? そやから三日も時間がとってあるんやん」

 亜緒依が朱実の顔も見ないで言う。

 「それ、ほんとに信じて言うてる?」

 「まあな」

 亜緒依は目を細めて朱実を見下ろすようにした。亜緒依のほうが背が高い。

 何が、まあな、やと思う。

 信じてへんくせに。

 「それより、何よ、こたつの横にみかんの皮むいたままほうり出して。だらしない」

 亜緒依が矛先を変えてきた。

 言い返す。

 「お母ちゃんかて同じことやってたんやで。わたしが玄関に出てるあいだに自分のだけ片づけてしもうて」

 「そんなん、言いわけにならへん」

 「言いわけしてるつもりやないもん」

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