第4話 お金持ちやないもん

 空はよく晴れている。

 真っ青。

 ほんとにきれいな真っ青。

 そして寒い。

 道は山のすそをめぐっている。

 右や左にあいまいに曲がり、ときどきゆるい上りがあったり下りがあったりして続いている。左側は杉がいっぱい茂った山で、右側は緩い坂から広い平野部へ続いている。車が一台通れるぐらいのコンクリート舗装の道の両側に家が並んでいる。

 人通りはほとんどない。

 みんな、出かけてしまったか、それともやっぱり家の中で退屈しているところなのだろう。

 道がところどころ幅が広くなっているのは、そこで車がすれ違うようにしてあるのだろうと思う。

 その道幅の広いところで、亜緒依あおいは青い高い空を見上げて大きく息をした。

 二人はあずさ神社に初詣に行くところだ。

 初詣とは言うけれど、朱実あけみにとっては二度めだ。昨日の元日、同じ神社に家族で行っている。

 正月にも帰ってこない大学院生のお兄ちゃんは別だけれど。

 亜緒依はほんとうの初詣らしい。

 梓神社はこの梓の町でいちばん大きい神社だ。

 とは言っても、名まえが知られているのは、歴史に詳しい人とか、特別にこの神社を崇敬すうけいしている人を別にすれば、地元の人の範囲だけだ。

 初詣が朱実の家の近所の神社でほんとうにいいのだろうか。

 亜緒依は。

 「それにしても遠いところに住んでるなぁ、朱実って」

 その亜緒依が気もちよさそうに言う。

 気もちよさそうに言われると、軽く抵抗してみたくなる。

 「遠ないよ。電車で学校まで一本やし。快速かて停まるし」

 「駅からが遠い」

 「しょうがないよ。うち、亜緒依のとこみたいにお金持ちやないもん」

 「お金持ちやのうても、もっと駅に近いとこに住んでる人いっぱいいてるやろ」

 「ええやん」

 どうしてお父さんとお母さんがいまのところに家を買ったのかはよく知らない。でも、朱実はいまの家でいいと思う。

 たまに隣がうるさいことがあるだけで、駅までは普通に歩いて二十分ぐらいだから、そんなに遠いと思ったことはない。

 小学生の途中ぐらいまでは、駅まで行くというと、すごく遠いところに行くように感じていたけれど、いつの間にかそんな気もちもなくなった。

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