第37話 泣く寸前でピアノを弾いていたわたしのことで
明けましておめでとうございます。
もしかすると、
じつは、あのあと、驚くようなことがあって、それをどうしても朱実さんに知ってほしくて、手紙を書きました。
あのあと、彼がわたしの家に来たんです!
彼というのは、わたしと結婚すると言っていたのに、ほかの女の人と結婚した彼です。
わたしが一月二日に一時帰国することは彼は知っていたので、わたしの家まで来たものの、決心がつかないで家の前をうろうろしているところを、あの
そんな事情なので、帰ってもらうわけにもいかず(追い返したらほんとにストーカーだということにされるかも知れないですからね)、家に上がってもらいました。
そうしたら、彼は、その結婚した相手の人とはさっさと離婚したというのです。
相手の人は、彼のお父さんが昔お世話になった学校の先生のお孫さんだったということで、いろいろな義理で断れなかったということでした。そのときの彼は、まだ、お父さんやお母さんと
それはそうだと思います。わたしだって、たとえ自分にとってすごくだいじなことであっても、そのためにお父さんやお母さんと喧嘩する、口もきかなくなるなんていうのは、よほどのことでないかぎり、絶対したくないですからね。
それで、いっしょに新婚旅行でスペインまで行ったそうです。でも、相手の人は、自分に気を使ってもらうのもいやだし、そのかわり自分も気を使わない人、自分の好き嫌いを押し通す人、で、彼は、わたしが結婚前にイギリスに音楽の留学をしたいと言ったら、いやがらないどころか、それを勧めてくれたような、相手のことをまず考える人でしょう? それで、その数日だけですごく気まずくなって、けっきょく帰国してすぐに離婚の手続きをしたということです。
そして、夜遅くまでいろいろ話しました。あの、朱実ちゃんと
彼は、今度は、自分のお父さんお母さんとは喧嘩しても、わたしと結婚したい、バツ一だけどいいか、と言ってくれました。実際、お父さんお母さんとは、もう互いに口もきかないほどの関係になっているそうです。
わたしは、いろいろ考えたけど、彼といっしょになることにしました。
今日(三日です)から和歌山の家に帰って、両親にも話してみます。わたしのお父さんとお母さんも、前のことでずいぶん怒っているので、かんたんには許してくれないかも知れませんが、ともかく、せいいっぱい話してみるつもりです。
こんなこと、朱実さんに書いてもしようがないかも知れません。でも、朱実さんが、あのときの、泣く寸前だった、泣く寸前でピアノを弾いていたわたしのことで、もしかして心を痛めてくれていたら困ると思って、この手紙を書きました。
それに、家出した彼を追いかけて沖縄の遠いところまで行った朱実さんなら、こんなきもちもわかってもらえるかな、と思って。
それでは、長々と失礼しました。
ロンドンにいるときには、日本に帰ればもう少しはあたたかいと思っていましたが、日本もさむいですね。
風邪を引かないように注意してください。
彼との話しだいで、この後の予定がどうなるかよくわからないのですが、また帰ってきたときには朱実さんにも会いたいと思います。それに、亜緒依さんにも。
亜緒依さんにもよろしくお伝えください。
かしこ
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