第16話 ここで吹っ切っとき

 商店街の照明はさっきよりも明るく、ぎらぎらと明るくおどっているように見えた。

 朱実あけみ亜緒依あおいは「辰屋たつや満生まんせいどう」の前に立ち止まっていた。駅の前から急に下りになっている坂が終わり、ちょうど平坦になるあたりだ。

 その三色だんごのパフェの出ているショーケースの前で。

 クリームの下は黒あんらしい。ちょっとおなかいっぱいになりそうな甘味ぶりだ。

 三色だんごのパフェの隣は、やっぱり黒あんとはちみつを垂らしたホットケーキだった。

 これも、おいしそうだったけど、やっぱりおなかいっぱいになりそう。

 いまの朱実がその「おなかいっぱい」を支えきれるかどうかわからない。

 「さあ、どないすんの?」

 亜緒依がきく。

 「うん」

 あれだけ歩いただけでは、気もちの整理はつかなかった。

 「あんまり食べたぁない」

 朱実が正直に言う。

 「こういうときは食べたほうがええよ」

 不機嫌そうに、命令するように亜緒依が言う。

 「家帰って、またあれこれ考えても解決のつかへんことを考えて悩むんやろ? それやったらここで吹っ切っとき」

 「悩む……んやろうなぁ」

 こんなことになったんも亜緒依のせいよ――と言おうとして朱実は思いとどまる。

 こうくんを追って朱実が沖縄まで行った事件のときは、たしかに亜緒依が朱実の不安をあおり立てることばかり言ったのだ。

 でも、今度は、違う。

 ひな先生の家まで行こうなどと言い出したのは亜緒依だが、それは朱実がひな子先生から年賀状が来ないなどと言ったからだ。あの向かいの二階のおばさんのことばに朱実が不安な気もちになったとき、亜緒依は、ともかくもその不安を消そうと、あのおばさんに質問をしてくれた。

 だから亜緒依をとがめるわけにはいかない。

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