第27話 あのときとおんなじや
前のように、学校で習った歌をみんなで先生の伴奏に合わせて次々に、というわけにはいかなかった。
そのかわり、先生は、いろんな曲を次々に弾いてくれた。最初は
「次、何弾こ?」
と
先生はオレンジ色のコートの下にはやっぱりオレンジ色のワンピースを着ていた。
そういうたら、学校に勤めていたときから、先生はオレンジ色とかレモン色とかクリーム色とか、黄色系統の服が好きやったな。
そのオレンジ色の服を着た先生が、天井の電球色の照明よりもずっと明るく光を放っているように見えた。
しかもその光は強く、きらきらときれいになっていく。
先生の奏でる音楽を聴きながら、朱実はふと外を見た。
あのときとおんなじや。
あのときと違って、先生が弾きはじめたときから暗くなり始めていた。
でも、気づいたら、外はまっ暗になっていて――。
窓には、自分たちが映っている。
あのとき、中学一年にもなって、朱実はふと思ったのだ。
窓ガラスのあっち側にも、わたしたちがいて、ここでおんなじように歌を歌ってるんや、と。
外が暗くなると、ここの窓に映る姿はほんとうに鮮やかで、それがこちら側の姿をただ反射しただけのものとは思えなかったから。
また、会えたね。
そっちはどうしてた? 元気やった?
こっちは、高校に進学して、なんか意地の悪い友だちに会うて、その子に
そんなことを話してみたいと思った。
そして、ふと、向こう側の亜緒依の顔を見ると、亜緒依は、じっと先生の奏でる鍵盤のほうを見ながら、うっとりと音楽に聴き入っていた。
そうか、と思って、こちら側の亜緒依を見ると、たしかに同じようにして先生のピアノに聴き入っていた。
朱実がふっとため息をつく。
「超絶技巧」という、曲名から受ける印象とは違って、夢見るような感じの曲を弾いて、ひな
満面の笑顔で、朱実と亜緒依を見上げる。
頬が赤くなって、唇の艶もよくなって、息も少し弾んでいる。
亜緒依が胸の下あたりの前に手を持って行って拍手した。
朱実もおんなじように拍手をした。
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