第32話 似合うてるよ。むくむくしてて
そんな先のこと、いま「いっしょになる」とか「いっしょにはならへん」とか決めたところで、何か意味があることとも思えないし、だったら、
「それじゃ」
だから、そんな小さい罠には気もついていないというように、明るく、
「うん。こんどは学校で」
「うん。おやすみ」
改装されて、
「朱実!」
西行きの階段を下りる手前から、亜緒依が声をかけた。
「なに?」
自分の声は演劇部のヒロインほどには通らないんだろうと思いながら、朱実は顔を上げる。
「その白いセーターとジャンパー、似合うてるよ。むくむくしてて」
「うん。ありがとう」
「じゃ」
お土産の小さい袋を片手に持って、あの、寒さを防ぐには役に立たなさそうな帽子の上に、晴れやかな表情でまっすぐに手を上げる姿が絵になっている。
「うん」
朱実が頷いてこたえると、亜緒依は勢いよく階段を下りて行った。
朱実も、反対側行きのホームの階段を下りて、二‐三段下りたところでふと気がつく。
「むくむくして似合っている」というのは、ほめことばなのだろうか?
犬じゃあるまいし。
「もう!」
いまいましそうに声を立ててみた。でも、いやな気分にはならなかった。
階段を下りたらすぐに電車が来たので、向かい側のホームで亜緒依がこっちを見ていたかどうか、見ていたとしたらどんな顔で見ていたかはわからない。
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