3.帰れるようです

 目の前に現れた重厚なのドアに唖然とする俺。


 どこかで見たことがあるドア。ドア枠とドアが自立している。その姿は異様。


 って、どこでも〇アや~ん!?


 青いタヌキのポケットから出てくる、あの有名なドアそのもの。


 ビビりながらドアノブを回してドアを開ける。


 首を出して中を覗くと薄暗いが俺の部屋だ。俺の部屋のリビングに繋がったように見える。


 靴を脱いで部屋の中に入る。後ろを振り向けばドアがあり、その向こうは木のうろの中だ。


 部屋には誰もいない。部屋の様子を見た限り俺の部屋のようだ。金曜の朝に出社した時のままだね。


 さてどうする? 戻ってこれたが異世界に興味はある、このままドアを閉めたら二度と異世界に行けなくなるとかないよね? それはもったいなさすぎる。


 それより、こちらの世界は俺のいた世界なのだろうか? そちらも気になる。


 部屋の中は俺の部屋そのもの。時間はどうなっている? 部屋のカーテンを開けると外は明るい。リビングの時計を確認すれば、あの爆発に巻き込まれた次の日の土曜午前九時だ。ということは、半日分の記憶がないことになる。


 マイPCを立ち上げ、中を確認。フォルダの中の写真を見ればアラサーの俺の姿が写っている。間違いなく俺が元いた世界のようだ。


 テレビを点けてみた。土曜の朝だというのに特別報道番組が流れている。昨日の夜に都内の居酒屋でガス爆発が起きたようだ。幸い怪我人だけで死亡した人はいないみたいだね。大変だなぁ~って!? 俺が巻き込まれた爆発や~ん!


 だが、それだけで終わらないらしい。怪我人だけで死亡した人はいないらしいが、店員やお客の証言から店にいたお客の人数が合わないことが判明。数名が行方不明になっていると騒いでいる。俺や~ん!?


 だが、数名? もしかして、異世界転生したのは俺だけではないのかな? 向こうでは、俺の近くには誰もいなかった。全員、違う場所に転生したのかもしれない。無事なことを祈ろう。


 人のことはまあどうでもいい。問題は俺だ。このままドアを開けっぱなしにするってことは、向こうと繋がったままってこと。危険な動物やモンスターが木のうろから入ってきて、こちらに来る可能性もある。それはヤバすぎる。


 うわー、もう面倒くさい。もう、や~だ~。明日から頑張るから助けて~。無理だね……。


 しょうがない、木のうろを塞ごう。塞ぐといってもどうやる? 取りあえず、ベッドマットを運んで入り口を完全に塞ぎ、後ろを木で斜めに支えた。まったくといっていいほど安全ではない。


 急いで着替えて近くのホームセンターに走る。厚手のコンパネと硬い板、長ネジなどを購入。頑張って部屋まで運んだ。体は若返ったが、筋力、体力がないので、まじ大変だった。しんどー。


 ベッドマットを撤去して入り口にコンパネを当て、邪魔な部分をのこぎりでカットし、充電ドライバーを使い長ネジでがんがん止めていく。それだけでは強度不足なので、買ってきた板で補強。


 ふぅ~、こんなものだろう。


 落ち着いたら、腹が減ったな。カッペロでも食うか。


 カッペロを食べながら考える。これからどうしよう……。


 食べ終わって洗面所に立って鏡を見る。身長は前の自分とほとんど変わりはない。逆に少し高くなったか? 髪は染めれば問題ないだろう。目の色はカラコンでも入れればどうにかなるか? 問題なのは若返った顔、これは誤魔化しようがないね。


 普段合わない友人とかならなんとか誤魔化せるかもしれないけど、普段から顔を合わせている同僚を誤魔化すことはまず無理。


 マスクとサングラスをかけてみる。不審者だね……。


 これでは、仕事を辞めるしかないかな……。


 上司の課長に電話して、目の調子が悪く病院に行ったら検査入院を勧められ二、三日入院することになったと連絡しておく。実際、目の色が変わったしね。検査には行かんけど。


 仕事はちょうど管理していた現場が終わって、俺の手が空いていた状態。まったく疑われることなく、お大事にと言われ有給を五日取ることができた。


 これで少し猶予ができた。


 辞めるにしても理由はどうする? 今上司に言った目のせいにするか? 目の色も変わっているしね。PCを長時間見ないようにと言われたとでも言っておこう。そうしよう。


 俺の代わりなんていくらでもいる。いい会社だったんだけどなぁ。仕方がない。


 貯金はそこそこある。今は彼女もいないし、酒は少し飲むけどギャンブルはしない。都内に住んでいるので車も持っていない。仕事を辞めても数年は生活できる。


 両親祖父母は既に他界しているから、心配する人もいない。あぁ、叔母さんがいたな……。


 まあ、それはいいとして、父方の育ての祖父が残してくれた家が千葉の成田にある。このドアが俺の考えているように使えるなら、仕事を辞めた後そっちに移ってもいい。


 向こうなら俺が若返っていても問題ない。近所も数年会っていないから、この姿でも問題ないだろう。まあ、毎年世話になってる人が一人いるけど、なんとかなるでしょう。


 そしてなにより、せっかくだから異世界も楽しみたい。


 なんか、会社辞めると決めたら、もうどうでもよくなって眠たくなってきた。


 森の中を歩いた疲れもあるのだろう。


 まあいい、明日から頑張ろう。






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