122.怒りの美紅です
カメラを回しつつ試合を観戦。手に汗握る戦いに興奮。肩車されているピムも興奮して俺の頭を叩いている。
叩くのやめてくれません? ピムさん。
「ふむ。たいした者はおらぬ。美紅の勝ちは確定であろう」
ルナから見たら、そりゃあみんな弱者じゃね? まあ、美紅が本気を出すほどの者がいないのはわかっちゃいるけどね。いたらいたで凄いと思う。
強者のルナから見たら茶番なのかもしれないけど、俺から見たらそれこそ映画の世界のような戦いだ。尋常じゃない動きと力。なぜそんな動きができる!? って感じだ。見ていて楽しい。
ただ、敗者になった人、生きているのだろうか? どう見ても重傷のような気がする。
三試合が終了して真打登場。今までとは違い一際大きな歓声が上がる。
今日の美紅の衣装は黒地に金色の龍。銀から金にグレードアップしたようだ。
事情通のおっちゃん曰く、笑みを見せない冷徹な美女戦士って人気上昇中らしい。
そんな、笑みを見せない冷徹な美女戦士も、
「美紅姉ぇ~、頑張れ~」
「ちぃ~」
妹分と娘の声援にこちらを見て極上の微笑みを返す。
どよめきが起き、美紅の笑顔にハートを射抜かれた連中が、
「あの女神に殴られてぇ……」
とかぼやいている。美紅に殴られたら死ぬよ?
美紅の相手もリングに上がってきた。弓を持っているけどいいの?
隣にいる事情通のおっちゃんに聞いてみた。いいらしい。
武器の投擲、
さすがに、鏃は外されているそうだが、急所に当たった場合は審判の判断で勝負が決まるルール。身につけている装備や当たった場所で、そこに本当の矢が当たったらもう無理だよね? って審判が判断するらしい。
そして始まる試合。
美紅の相手の持つ弓はショートボウ。狭いリング上では使い勝手がいい。走りながら矢を射っている。結構、凄い技術のような気がする。
だけど、美紅には当たらない。ほんの少し体を捻り矢を躱す。その度に美紅の後ろにいるギャラリーに当たって悲鳴が上がっている。なんか、対策しようよ?
矢を射っては躱し、悲鳴が上がるを繰り返す。
あー、美紅さん、そこはまずいですよ?
案の定、美紅が躱した矢が俺のほうに向かって飛んでくる。ギャラリーでいっぱいなので逃げる場所なんてない。カメラを構えピムを肩車しているから動きも鈍い。
「にゃ!?」
「ちぃ~!?」
ピムとチロルの悲鳴が上がり、美紅がハッとした表情を見せる。そして、俺に矢が当たると思った瞬間、ルナの腕が伸び矢を掴む。
あ、危ねぇ~。
「ルナ姉ぇ~、凄いです~」
「ちぃ~」
「助かったよ。ルナ」
「うむ。当然よのう」
美紅がほっとした表情を見せたすぐあと相手のほうに顔を向けると会場の雰囲気が変わった。そして、会場が静まりかえる。なんか、熱気のあったこの会場の温度が下がったような?
ピムがブルっと体を震えさせる。そう、美紅から怒りのオーラが溢れているように見える……。
「我が愛する者に武器を向けるとは、万死に値する」
周りが凍りつくのでないないかというほど、冷たい声が会場に響く。こちらからは顔が見えないが、おそらく、いや間違いなく極冷の眼差しを相手に向けている。
美紅が前に一歩踏み出したところで、
「こ、降参する……」
「しょ、勝者、三百四十五番!」
相手が降参して審判が美紅の勝利を告げた。
美紅の動きがピタリと止まる。審判の声が少し遅れていたら、相手の人ヤバかったかも……。
美紅は俺のほうを向いて深々と頭を下げてからリングを下りて行った。
「美紅姉ぇ、怖かったです……」
「ちぃ……」
「さすがの妾も背筋がゾクリとした……」
ははは……。ルナをビビらせるなんて、美紅半端ねぇっす。
この試合で午前の試合は最後。午後に準決勝の二試合が行われ、本戦出場権と明日の決勝戦出場が決まる。
「昼飯食べに行こうか」
「はいです!」
「ちぃ~」
途中、アイリスたちと合流。ハヤテ、カスミ、アヤネも問題なく勝ち進んだ。当り前か。
「教国の司教と司祭、騎士、兵士が行方不明で騒ぎになってるみたいだよ」
知らんと言いたいところだけど、あの場面を見ている人は大勢いる。この大会の警備兵も役人も見ている。俺たちのことが知られるのも時間の問題。どうやら、二度目の奴は司教だったみたい。面倒だね。
まあ、いいか。非は向こうにある。役所の人間もそれを認めている。なんか言ってきたらあの部長に丸投げだな。
空いている場所にシートを敷いてテーブルを置く。コンロを置いて土鍋を載せる。今日はちり鍋。
なぜか、ファインがルナの横に座って酌をしている。どこから湧いた?
まあいい、出汁を入れ沸いたところで具材を入れていく。鱈の白子も投入だ。ガキの頃は脳みそみたいで食べられなかったが、この歳になると気にしなくなり、美味い素材でしかない。
思い思い好きな物を取ってポン酢で食べる。薬味は定番のもみじおろしと刻みネギを用意した。
「生の魚っすか……。兄貴たちは王族っすか?」
んなわけあるか。
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