28.会社辞めました

 五十個のお弁当って凄い量だな。侮っていた。三人でなんとか持って外に出て隠れて収納。それを三軒繰り返す。これで、当分買わなくていいだね。


 部屋に戻り、ソファでぐったり。二人はピンピンだが夕食の用意は面倒だろうから、買ってきたお弁当で済まそう。って十個も食いやがった……。あれだけ買った弁当なのに、すぐなくなりそうなのが怖い。


 お弁当を食べながら二人に、明日から少し私事で用事があるから、自由にしていいと言っておく。収納にはお金が入っているので自由に使っていいとも言っておいた。


 そう、会社を辞めるのだ。


 退社するといってもすぐに退社できるわけではない。最短で三週間、会社によっては一か月辞められない場合もある。


 ちょうど前の管理していた現場がしゅん工したばかりなので、おれは現場を持っていない。だが、次の担当者に引き継ぐべき事項は多い。それを済ませないと、さすがに社会人としてどうかと思うのでそれまでは会社にいるつもりだ。


 なので、二人は暇になる。お金はあるから食べ歩きだろうが、フードファイトだろうが好きにやってくれって感じだ。ついでに新しいPCを買ってきてほしい。二人が常時使っているので俺が使えない。各自一台でいいだろう。ついでにルーターも性能がいい物に交換したい。その辺はお任せだ。


 それと、今日買ってきた服は収納バングルに入れっぱなしにすることにした。俺の部屋にはそれをすべて収納できる収納スペースがない。今後、そういうことも考えていかないとね。


 夕食後、退職届を作る。手書きは面倒なのでPCでささっと作った。もちろん、一身上の都合でがお約束。


 風呂に入って明日のことをシミュレーションして、どう言い訳するか考える。


「クート、ご一緒させていただきます……」


 顔を赤らめて美紅が一糸まとわぬ姿で入ってきた。眼福です!


 そして、丸洗いされました。


 明日は久しぶりに会社に行く。早く寝ようなんて思ったら、コンコンコンとなる。


「来ちゃった♡」


 まあ、そうなるよな。差別はいけない。平等に扱わなければならない。いや、建前なんてどうでもいい。ウエルカムだ!


 チュンチュンチュン……。


 俺の横には、安らかな寝息を立てている天上の天使が寝ている。


 ヤバい今何時だ? うわぁ、シャワーを浴びてぎりぎりの時間だ。美紅が起きていて朝食を作りますと言ってきたが、時間がないのでパス。急いで出社の準備をして出発。部屋を出る前にキス……ではなく、部屋の合鍵を渡し、荷物が届くので受け取るようにお願いして部屋を出る。


 ヘタレじゃないぞ! 時間がなかっただけだからな!


 地獄の満員電車に箱詰めにされ会社に到着。既に来ていた上司に退職届を出す。ちなみにマスクとサングラスをしている。


 上司は誰やお前って感じ。サングラスを取ってもハテナ顔。そういえば髪を切ってイメチェンしていたな。


 名前を告げて初めてなんとか俺と理解される。若返っているので、声も違うみたいだ。そこは風邪と誤魔化した。声についてまったく気づいていなかったな。


 目の病気で色素関係に異常が見られる。当分は通院で様子を見るが今後どうなるかはわからない。PC作業は極力避けるようにと指示されたことを伝える。


「そうか……。その目はそういうことか。それは大変だね。今後、どうするんだい?」


「千葉に祖父が残した家と土地があります。農業でも始めようかなと」


「そうか……。わかった。受理しよう。病気ではどうしようもない。君には期待していただけに残念だ。上には私からこの後伝えておこう」


 本当に残念といった表情を見せる上司に、心の中で土下座して謝る。ごめんなさい。病気どころか、若返って以前よりピンピンしてます。


 朝のミーティングの後、上司に呼ばれ人事部と社長への報告へ向かう。病気ということで、引き継ぎが終わった時点で退社が認められた。ラッキーだ。


 デスクに戻ると同僚たちから質問攻め。目を見せると女性陣から綺麗と言われたが、先輩が病気でこうなったんだぞ不謹慎だと諫める場面も。心が痛いです……。


 その後、二日かけて先輩と後輩の三人で引き継ぎ作業を行った。最後は取引先の担当者さんに退社の挨拶メールを流し、PCの初期化を行い終了。


 送別会を開くという話もあったが、今日昨日の話なのでみなさんに迷惑がかかると辞退。明日改めて挨拶に来ると言って帰宅した。


 翌日、昼過ぎに高級菓子の詰合せを大量に買い込み会社に向かい、お世話になった部署に挨拶回り。みなさん、本当に退社を惜しんでくれ、本当に心が痛んだ。


 最後に人事部に行き退職に関する書類などをもらう。間に合わなかった書類は後日郵送してもらうことになった。六年しか勤めてなかった会社だが、少しばかりだが慰労金として退職金が出るそうだ。ありがたいね。


 最後に外に出て会社に向かって深々と礼をしてから帰った。


 これで、俺は自由だー!


 さっきはさっき、今は今、ルンルン気分(死語)で帰ったね!


 自由、サイコー!






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