4.ブラックマーケットに行きましょう
パチリと目が覚めた。時計を見るとまだ昼過ぎだ。あれ? 思ったほど疲れてはいなかったのかな?
うーん。完全に目が覚めてしまった。
せっかくなので、未確認のスキルの検証をしよう。そう、ブラックマーケットに行ってみようじゃないか!
このスキル、こっちの世界からでも使えるのだろうか?
『ブラックマーケットへ移動しますか? Y/N』
おぉ、使えるし、行けるようだ。リュックに財布やスマホを入れて玄関で靴を履く。それではポチっとな。
ん? 何も起きないぞ。
んん!? なんだ? スキルで出したドアの向こう側が木のうろじゃなくなっている!
もしかしてドアは共有されている?
一度靴を脱いで向こうのドアを通って向こうに出る。どこかの町の広場って感じの場所に出た。
後ろを振り返るとドアがなくなっている!?
大丈夫だよね? 帰れなくなるなんてことはないよね? そうなったら、俺、泣くよ?
ディスプレイを確認すると、
『ブラックマーケットから移動しますか? Y/N』
と出ている。よ、よかたぁー。
おそらく、Yesを押せば帰れるはず。信じているぞ!
まあ、今更どうしようもないので、せっかく来たのだから見て回ろうじゃないか。
ここはどうやら円形の広い公園のようだ。その中央に噴水があり、水を空に吹き出しキラキラと反射させている。見上げれば、雲一つない綺麗な青空。
公園の外にはコンテナハウスというか屋台? がずらーっと並んでいる。その屋台の後ろには、ヨーロッパ風のレンガで出来た建物が建っている。公園を中心に東西南北に大きな通りがあるのが見て取れる。
少し歩いてみるか。東西南北のどれかわからないけど、目の前の大通りに進んでみた。
「あでっ!?」
公園沿いの道から大通りに向かおうとしたら、見えない何かにぶつかった。
なんだ?
ペタペタと見えない何かを触ってみる。壁だな。一部ではなく全体に見えない壁があるようで、見えているのに向こうに行けない。どーなってるの?
「にーちゃん、ここに来るのは初めてみてぇだな?」
声を掛けられたほうを見れば、屋台の中にねじり鉢巻きをしたタコがいた……。タ、タコ!?
あまりジロジロと見るのも失礼だけど、無茶苦茶気になるからついガン見してしまう。
「ん? どうしたんでぇい? 言葉が通じねぇか?」
「え、えぇーと、通じてます。通じてますよ! それとここに来たのは初めてです」
「やっぱりな。初めての奴はみんな同じようなことをしやがるんでぇい」
「えーと、ここはブラックマーケットで合ってますよね?」
「おうよ。ここはすべての世界に通ずる天下のブラックマーケットだぜい!」
ブラックマーケットで間違いないようだ。それより、タコさんが言っていたすべての世界に通ずるってどういう意味かな?
「にーちゃん。まずは両替所に行ってきやがれ。そこで両替しねぇと何も買えねぇぜ」
「両替所ですか?」
「おうよ、向こうにメタリックなでっけぇ建物が見えんだろう? あれが天下の両替所よう」
「あ、ありますね……」
振り返ってみればこのヨーロッパ風の景色に似合わない、SF作品に出てくるような、未来的でメタリックな外装の建物が異彩を放っている。まったく気がつかなかった……。
「わかりやすくていいだろう!」
「ソ、ソウデスネ」
「両替が終わったらよう、俺っちの店でなんか買ってくれぇ~」
タコさんにお礼を言って反対側の両替所に向かって歩く。歩きながら屋台を見ていると、明らかに普通の人間じゃない者が大勢いることに気づいた。
動物の耳が頭に付いた人などは可愛いほうだ。見るから二足歩行の動物がいたり、のっぺらぼうに鬼、はたまたロボットまで多種多様な種族がいる。俺と同じ姿の人のほうが少ないくらいだ。
そして、両替所に着いた。入り口らしき所は継ぎ目がないように見えるガラス張り。どうやって入るんだ? 少し様子を見ていたら、中なら人? 体が水で出来た人が出てきた。自動ドアみたいだ。やはりあそこが入り口のようだね。
ガラスの前に立つと一切継ぎ目のないガラスが左右に開く、凄いね。
中はカウンターになっていて窓口が二十くらいある。半分ほど先客がいて埋まっている。適当に空いている窓口に行ってみる。
「ようこそ。本日はどのような御用ですかな?」
めちゃくちゃ顔色の悪い中年の男性に当たってしまった。
チッ、ここは美人の案内嬢がデフォルトじゃねぇ?
「ここの窓口には男性職員しかおりませんな。あしからず」
こ、心を読まれた!?
「心の声がダダ洩れですな。声に出ておりました」
なんてこった!? この軽いお口の馬鹿!
「りょ、両替をお願いしたいのですが?」
「ふむ。お客様はブラックマーケットのご利用は初めてですかな?」
「えぇ、初めてで右も左もわかりません。お時間がよろしければ、ご教授をお願いしたいのですが」
「よろしいでしょう。この案内業務五百三十八年勤務のデスナーがお教えいたしましょう」
案内業務五百三十八年勤務って……ベテラン万年平社員か!? 危ない危ない、また俺の軽いお口から心の声がダダ洩れするところだった。
「クートです。よろしくお願いします」
「ふむふむ。クート様ですな。長いお付き合いになりそうですな」
これが、本当に長い付き合いとなる、両替所の案内係デスナーさんとの邂逅であった。
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