52.観光といえば食べ歩きです

 紙を持って表に戻る。


 あのお姉さんと美紅がチロルをモフモフしている。仕事せんでえぇの?


「これを渡されましたが、どうすればいいですか?」


 お姉さんに紙を渡す。チロルがお姉さんの所から俺の肩に移って、スリスリしてくる。お姉さんが凄く残念そうな顔になり、今度は紙を見て驚きの表情になる。


「森の奥に行かれたのですか!」


 そんなに驚くことなのか?


「八の氏に用があってね」


「聖域の守り人のエルフにですか!」


 あいつら、やっぱりエルフなのか。イケメンだけどほとんど普通の人と違わないよな。女性のエルフに会ってみたい。


「それより、買い取りをお願いします」


「し、失礼しました。ハンターに登録はいたしませんか?」


「縛られたくないんで」


 なぜか、うんうん頷いて一人で納得しているお姉さん。俺たちがどっかの紐付きとでも思っているのだろう。


 まあ、そういうふうに誘導したんだけど。


 解体料、手数料等を差し引いて十万レト。ハンターなら十五万レトになったらしい。まったく気にしない。


 ロックエイプがいい値段になったらしく、あの森ではフォレストベアに次ぐ強さのモンスターだそうだ。個体の強さというより数と連携の強さみたいだね。


 さて、どうしようか? 時間はまだ夕方の五時になっていない。村の中を見て歩きたいが、少しでも先に進むべきか迷う。


 よし決めた。せっかくなので村を見て歩こう。


 時間が時間なので食べ物屋以外の屋台は店仕舞いしている。なら、屋台で買い食いだな。


「屋台で買い食いしよう!」


「それは名案です」


「ちぃ~」


 最初はいい匂いを漂わせている串焼きの店。塩とタレがあるので二本ずつ買った。


「癖がなくて肉も柔らかく美味しいね。ご飯に合いそう」


「塩もいいですが、このタレがいいです。玉ねぎやニンニク、生姜などの香味野菜で作られたタレのようです」


「ちぃ~」


 二百レトするけど、一本の肉の量が凄い。二本も食べればお腹いっぱいになりそうなので、チロルとシェアして食べている。


 アイリスのお土産に五本買おうとお店のおっちゃんに言ったら、美紅が更に五本追加した。塩とタレ五本ずつにしたかったらしい。自分も食べるために。


「気に入ってくれたみてぇだな。この村名物のクレイラビット肉の串焼きは旨いだろう!」


 翠色の風の四人組が取り逃がした得物の肉がこれか。兎の肉は初めて食べたけど、ジューシーで美味しかった。


 なん軒か屋台を回り、腸詰ソーセージ挟みのパン、塩を振ったシンプルな蒸かした芋などを食べお土産も買っておく。


 正直、お腹いっぱい。そろそろ帰りたいので村の外に出る。見張り役の人に八の鐘が鳴ると門が閉まるからなと言われたが、この村に戻るつもりはないので気にしない。手を上げて挨拶だけしておいた。


 道沿いに畑が続いているけど、村の外に住んでいる人はいないようだ。夕焼けの中、村のほうに急ぐ人とすれ違う。どこかいい場所を見つけて戻ろう。


 結局、一時間歩いて少し木々が生い茂った場所でドアを開いた。


「お帰り~」


「ちぃ~」


 チロルがアイリスに飛び込んで、ただいまのスリスリ。


 夕食は買ってきた屋台の品を食べる。といっても、俺はお腹がいっぱいなのでパス、チロルもね。二人が食べ終わるまでウーロン茶を飲んでいる。チロルは巨峰ジュースだ。


「多菱工務店の社長さんから連絡があって、明後日から解体工事が始るって」


「急いでって頼んだけど早いね」


「地方の工務店にしたら、億越えの仕事は滅多にないから気合が入っているんじゃない?」


 そんなもんか。契約書も近々できるそうだ。前金持って判を押しに行かないとな。


 翌日、仕入れに行ってから異世界マヤリスに行く。そこから八日かけてエルピスまで移動した。途中一度、多菱工務店に行って前金を渡し、契約書に判子を押してきた。基本の費用は倉庫込でおよそ三億二千万となった。前金二千万を支払い、中間で全額の半分を支払うことになった。残りは完成後の支払い。そのほか設計変更や必要になった場合の費用は話し合いのうえ別途支払うことになる。


 正直、判を押す手が震えた。だが、見積もりを見てアイリスが頷いていたので適正なのだろう。そして、バッグから現金で前金の二千万を渡す。


 お金は百万円ずつ封がされているけど、事務員さんが紙幣カウンターを持ってきて数える。


「間違いなく二千万円あります。確かにお預かりいたします」


 そして、前払い金の領収書を渡してきた。ゼロが多いね。


「施工期間は十か月。地鎮祭には出てくれよなぁ」


 結構かかるね。どうしても大きい家なので仕方がないのかもしれない。駐車スペース兼仕入れ品の搬入倉庫も建てるしね。


工事は絶対にしねぇから。安心しろやぁ。代わりにで工事すっからよ。がっはっはっ!」


 なんて、おやじギャグが炸裂する場面もあった……。


 つまんねぇよ。





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