2.現状確認は大事です

 明日から頑張りたいのは山々なんだけどさぁ、そうも言っていられない。


 まずは現状把握が必要。特に、ここが本当に異世界だった場合、即ゲームオーバーもあり得る。


 ステータスには名前と年齢、スキルのようなものが記載されている。その下に『世界の理から外れし者』なんて書いてある。


 世界の理から外れるってどういうことかな?


『おお と〇ぬら! しんでしまうとは なにごとだ!しかたのない やつだな。 おまえに もう いちど きかいを あたえよう! 』


 みたいにセーブアンドロードでもできるのか? それとも今回限りの復活チャンスだったのだろうか?


 できれば、復活の呪文は面倒なのでROMにバックアップ機能を付けてください。


 さて、思考がだいぶ斜めにズレたね。ズレた思考は横に置いておこう。


 名前がなぜか二つある。天宮空斗あまみやくうととクート・スカイフォートだ。


 年齢は十五……じゅ、十五歳だとぉぉぉ!?


 そういえば、なんかお肌に張りがありモチモチしている。疲れたアラサーの肌ではないような気がする。若返ったのか? 腹の傷を確認してみる。十二の時に盲腸で腹を切ったその跡だ。


 無いね。


 見える範囲の体を調べたが、どこにも傷跡ひとつ無い。っていうか、日焼けの跡さえない、病的に真っ白な肌だ。腕を曲げて力瘤を出そうとしても出てこない。腹筋に力を込めてもぷにぷに……。


 その割に背は高い。着ているスーツはぴったりだ。俺は身長百七十六センチある。十五の時ってもっと低かったような気がする。


 そこら辺を踏まえて考えると、転生っぽいね。


 それと名前だ。なんで二つある? 


 特に本名じゃないほう! なんだよクート・スカイフォートって! クートはいい。トン〇ラじゃなくてまじよかった。だが、スカイフォートってなんだよ! フォートって城塞って意味だ。宮は宮殿の意味だからパレスじゃねぇの? スカイパレス、悪くないと思うよ?


 もう、決まっているようだからどうしようもないけどね……。


 気を取り直して、スマホで自撮りしてみる。


 若いね、それに髪の色が黒じゃなく茶髪、というより栗色だね。目の色も元の色ではなくこげ茶に少し青が入った感じだ。ハーフとまではいかず、クォーターっぽい感じ。


 良く言えば外国人ぽっくした日本人、悪く言えば外国人コスプレに失敗した日本人。中途半端や~ん! それでも、厨二心が少し疼いた……。


 それはさておき、異世界定番のレベルはなく。HP、MPなどのステータス値もない。この世界はレベル制ではないのかもしれない。すべてマスクデータかも? そうなると不便だね。


 自分の強さがわからない。強いのか弱いのかもわからないうえ、俺Tueee的な強さが得られるのかもわからない。慎重に行動する必要が出てきた。


 スキルっぽいものは二つ。『ブラックマーケット』と『ドア』だ。


 ちゃんと調べたいところだが、こんな森の中で突っ立てるわけにもいかない。そろそろ、移動したほうがいいだろう。もしここが異世界なら、定番のモンスターがいてもおかしくない。


 俺のスキルはどう見ても戦闘スキルのようじゃないからね。まずは安全確保が最重要課題になる。スキルを調べるのそれからだ。


 さて、どちらに行けばいいのかね?


 歩き回るにしても、なにが出てくるかわかったものじゃない。今、武器になるような物は持っていない。近くに落ちていた太い枝を拾って振り回してみて、手にしっくりする枝を武器代わりにする。


 バッグに着けていたアクセサリーに方位磁石があったので確認。ちゃんと北を向いている。の北かなのかは定かではないけど、これで方向はわかるようになった。


 周りは木々に覆われていて遠くが見えない。取りあえず、勘で東に進んでみることにした。


 用心しながら二十分ほど歩いた。距離はさほど進んでいないと思う。なんといっても足場が悪すぎる。人の手が入っていない原生林。道なんてありはしない。草木をかき分け進むしかない。


 現代人のサラリーマン舐めるなよ! 体力なんてないし、田舎のガキみたいに野山を駆け巡るなんてことも、もう何年もしたことがないんだぞ! 異世界と喜んだのは束の間、もうホームシックだ……。


 それでも歩くしかない。棘のある草木も多く、この短時間で革靴もズボンの裾もぼろぼろになっている。鳥の声は聞こえるが、未だに鳥どころか生き物さえ見ていない。こんな原生林なら動物がいてもおかしくないのにだ。


 更に二十分ほど歩いたところで急に目の前が開け、巨木を見つけた。そう、巨大な木だ。巨大すぎて上が見えない。直径数百メートルはあろうかという巨木だ。これ、本当に木なのだろうか?


 その巨木の根元に一つぽつんと樹洞がある。入り口は一メートルくらいしかなさそうだけど、奥は広そう。


 行って中を覗いて見たが、先住者はいなさそうなので入らせてもらう。入り口は近くに落ちていた枝を集めて下半分を塞いでおいた


 中は十メートル四方くらいで上はニ十メートルくらいある。途中に穴があるのか光が少し入ってきている。


 ここで少し休憩できそうだね。というか、もうここで一泊でいいんじゃね? もう、歩くのや~だ~。


 バッグからマイボトルに入ったお茶を飲む。


 ふぅ~、一息付けた。少し落ち着いた。なので、先ほど諦めたスキルの確認をしよう。


 ブラックマーケット、直訳で闇市。非合法の取引が行われる市場が本来の意味だ。最近ではブラックフライデーと称したセールを行うものも多い。まったく関係がない。なぜそんなことを考えた? 疲れているのかも……。


 ディスプレイのブラックマーケット部分をタップすると『ブラックマーケットへ移動しますか? Y/N』と出てくる。取りあえずNoだ。


 もう一つのスキルも調べてみよう。


 ドア、扉だな。それ以外の何物でもない。ドア部分をタップすると長方形の箱が上下に並び、その間に~があり、一番下に決定ボタンがある。


 ん? まさか、そういうこと?


 長方形の箱をタップするとキーボードが出てきた。現在地木のうろ(仮)と打ち込む。『現在地木のうろ(仮)が登録されました』と出た。もう一方の長方形の箱に、町と打ち込んだが『指定できません』と出た。


 曖昧すぎるからだろうか? かといって、ここがどこかもわからないので、町の名前なんかわからない。


 やけくそで、自分の住んでいるマンションの住所を打ち込んでみたら、登録された……。


 えっ!? 行けるの? ってか、帰れるの? 恐る恐る、決定ボタンを押してみる。


 目の前に重厚なドアが現れた。


 まじ……?。







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