112.組合せ表見に行きました

 オープンから四日目、今日から通常営業になる。


 妖精五人組は三日間頑張ってくれたので、割増しでバイト料を払っておいた。また、機会があればお願いしよう。


 チョコを買うお客さんは日に日に増えている。おかげで、店の売り上げはうなぎのぼり。当初の予想を大幅に超えている。


 ただ、馬鹿な客が二人ほどいた。客という意味では一人かな? 


 一人は教国の助祭という奴。威張り散らした挙句、並んでいるお客さんを押しのけて割り込みをして買おうとしてきた。


 ちゃんと順番を守るようにとライアが注意したら、逆ギレでわめき出す始末。最後に天罰が下るぞと脅してきたので、ハヤテに指示して外に投げ出されていた。店の前で天罰、天罰とうるさかったので、今度は俺が水をぶっかけてやった。


 もう一人は帝国の貴族。妖精組にピムとチロルが混ざっていたことから、チロルがカーヴァムクルと知られたみたいだ。最初は使いの者が来てチロルを寄こせと言ってきたので、美紅がハヤテに指示しボコボコにして追い返した。


 その後すぐに大勢のお供を引き連れた貴族が現れ、世のためになるのだからチロルを引き渡せとある意味脅迫。プチンとキレた美紅が全員をボコボコにして大通りに投げ捨てた。守護者の尾を踏むとは馬鹿な奴らだ。


 そのほかは多少、貴族や富豪の使いが権力を嵩に懸かけて割り込みや値切ろうとしてくる者がいたが、ハヤテを前に出すとおとなしくなった。


 抑止力は大事だと改めて思った。


 お客の大半を占める女性陣も、カスミとアヤネがちゃんと抑え込んでいるので問題ない。逆にカスミとアヤネの凛々しさにファンが出始めているみたいだ。チョコを買いに来ているのか、カスミとアヤネを見に来ているのかわからないお客がいるらしい。


 少し腐臭を感じる……。どこの世界でも腐女子は少なからずいるようだ。それ系の本を持ち込めば売れるか? いや、収拾がつかなくなりそうだから、やめておこう……。


 そして今日は天祐十傑神選の組合せ表が張り出される日。


 今日はアイリスと一緒に見に来ている。


 組合せ表の前は人だかりで凄いことになっていて、組合せ表の前まで進めない。


「凄い人だね~」


「そだねー。これじゃあ、見えん!」


 残念ながら俺の視力では組合せ表が遠くて見えない。バイザーの望遠なら見えるかも。取り出そうとしたら、


「アイリス、見えるから探すよ」


 ってことなので任せた。


 予選は全員バラバラの会場になっていた。これで本戦までは味方同士でぶつかることはなくなった。一会場でおよそ三十人が競い合う。ということは、参加者総数は七百人以上いるってことだ。


 凄い人数が集まったものだ。だけど、この中で本気で天祐十傑を狙っている人はどのくらいいるのだろうか?


 正直、この世界の人の実力がわからない。俺と同じ種族の普人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族などが町で生活している。


 こちらの人はマッチョで身長二メートル超えはざら。ハンターという職業に就く人たちを見ると、明らかに戦士という体格。女性のマッチョも多く見かける。


 だけど、近くに美紅やルナ、ハヤテみたいな強者がいるせいで、こちらの人の実力が測れないのだ。強そうにも見えるし、見掛け倒しのようにも見えてしまう。


 なので、予選を楽しみにしている。と言っても、もう二日後から始まるけどね。


 そう、二日後から始まるのだ。チョコレート菓子店は一番いい時期にオープンした。この天祐十傑神選が行われるのでこの大陸、いや世界中から人が集まっているのかもしれない。知らんけど。


 ここに初めて来た時より明らかに行き交う人が増えているし、屋台なども見るからに多くなった。その証拠に俺が借りている宿も、カスミとアヤネの借りている宿の部屋も便乗値上げされている。


 店舗が完成したのでそろそろ宿を引き払ってもいいかもしれない。店舗に常駐させよう。ついでに、猫型偵察機を持ってきて警備させてもいいかもしれない。


 帰りに屋台巡りをしてみんなの昼ご飯を買っていく。マヤリスの食事は素朴で美味しいのだけれど、何か一味足りなく感じる。


 唐辛子、ニンニク、生姜、ハーブ系は確認している。胡椒なども売っているのは知っている。だけど、馬鹿高いみたいだ。砂糖も同じで目が飛び出るほど高い価格。それも黒砂糖。アーニャちゃんの世界より技術が遅れているようだ。


 代わりにハチミツが多く流通している。養蜂が盛んなのかな?


 それと、アイリスと美紅の観測の結果、この星は地球の1.5倍くらいの大きさになるみたい。それなのに、向こうの世界との時差がないのは不思議。回転が速いのか?


 今いるメディウス・キウムは温帯気候帯になるようだ。三月頃が寒さのピークで雪も少しだが降るみたい。


 なので、この地域でサトウキビや胡椒などを育てるのは難しい。やるとすれば、甜菜かな? 香辛料だと山椒辺りなら栽培可能かも? まあ、面倒くさいから、やる気はないけど。


 土地もない、人もいない、成功したとしても馬鹿な奴らに目を付けられる可能性が大。こっちで苦労して育てるより、向こうで買ったほうが量が手に入るし、結局安上がりになると思う。


 そんなことを考えながら、屋台で爆買いしていくのであった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る