113.予選開始です

 本日、天祐十傑神選予選の日。


 本当なら、お菓子屋はお休みにしようと思っていたのだけど、ライアとサキの提案で少しの間、休みなしで営業することになった。このうなぎのぼりの流れを止めたくないそうだ。従業員の子たちもそれで納得している。


 護衛組が大会に参加するので、その間はハンターギルドから女性三人組のPTパーティーを雇っている。高い賃金より、賃金下げてチョコを毎日支給してほしいと言われ承諾。意外と安く雇えたね。


 そうそう、高坂さんをサキと呼ぶようにした。元々、年下だし、俺が彼女を雇っているので、ライアにそう呼ぶように指摘されたからだ。


 予選は三日間行われる。一日目は一回戦、二回戦。二日目は準々決勝と準決勝。三日目が決勝になる。その決勝に残った二人が本戦出場となる。


 町中が朝からお祭り騒ぎだ。聞いたところによると、メディウス・キウムの宿はすべて満室。泊まれない客には、町の外に作られたゲルのような円形テントが数多く用意され貸し出されているみたい。


 どんだけ、人が集まっているんだ?


 おかげで、お店は大盛況。たまに買い占めようとする馬鹿がいるけど、数量制限しているので一定数以上は売らないことにしている。買い占めようとする奴らは、転売しているとカスミとアヤネが調べてきた。


 そういう奴はブラックリストに載せて、店の前に張り出し入店拒否している。


 貴族や金持ちも買い占めをしようとするが、休みの日以外はちゃんと数を用意していると説明して一定数しか売っていない。毎日、買いにくればいいだけのことだ。


 ただ、俺たちが思っていた以上にお客が多いので、従業員に負担がかかっている。今はメアリーとカミーユが手伝っているからなんとかなるけど、二人をこの店の専属にする気はない。この店はこの世界の人を使って運営するのが基本とすると決めている。


 なので、近々北区の孤児院から人を雇う予定でいる。ライアがその段取りをしているので、今回はすべて任せるつもりだ。



「人がいっぱいです~」


「ちぃ~」


 ピムはアイリスと手を繋いで歩いている。俺はルナと腕を組んで歩いている。ピムは迷子にならないようにとの配慮ね。俺は違うからな。


 季節は冬近くって感じなので、全員冬装備。ピムは白のコートでモコモコになっている。猫というより兎かな。


「これだけ人がいれば、一人か二人はケットシーがいてもおかしくないよね?」


「いるであろうよ。ケットシーは好奇心旺盛ゆえ、こうした祭りは見逃さぬ」


 と言ってる矢先にアイリスがケットシーを発見。声を掛けてみる。


「知らねぇなぁ。嬢ちゃんの村の名前はわかるか?」


「村の名前です~? 知らないです! 戦士長はポルおじさんです~。奥さんはペラおばさんで~、腹ペコペロお兄ちゃんもいます~!」


「し、知らねぇなぁ。まあ、知り合いにも話をしとくぜ」


「よろしくです~」


 気のいいケットシーのおじさん? に宿はどうしているのか聞くと、各区ごとに区長と呼ばれる猫の元締めがいるようで、その区長の所で世話になっているそうだ。


「困ったことがあったらうちの店に来るといいよ。泊まるところや食事くらいならなんとかするから」


「そいつは助かるぜ。この人の多さだろう? 区長の所も全員面倒見切れねぇからよ。この時期野宿は辛いんだわ」


 ピムの件もあるから、恩を売っておくに越したことはない。それにケットシーは善良な種族みたいだから仲良くしておきたい。


 ピムがケットシーのおじさんに手を振り別れを告げ、俺たちも予選会場に向かった。


「それにしても、ケットシーってまったく年齢がわからん」


「凄く可愛いよね~。声以外」


 声ねぇ~。そうなのだ。あんな可愛い顔なのだが、ハスキーボイスのおやじ声なのだ。


「あんなものであろう? 年老いてピムのような声を出されるほうが引いてしまうわ」


「まあ、そうなんだけどね~」


「ピムのパパにゃんもあんな感じなのです!」


 ピムはこんなに可愛いから、ピムのご両親も美猫なのだろうか? 会ってみたい。自分を顧みずにピムに腹ペコと呼ばれるペロ兄ちゃんにも興味が湧くね。


 さて、本日予選参加の四人で一番早いハヤテの予選会場に来ている。


 予選会場といっても予選用に急遽作られた会場だ。


 こちらの世界は建築基準法なんてものはないし、スキルという反則技がある。工房兼宿舎の基礎造りを見ていたけど、鉄筋やコンクリートなどは使っていなかった。ただ、元の地面と持ち込んだ土を使いスキルで固めていただけ。触って確かめたが石のように固くなっていた。


 試しに一塊別に作ってもらって、ハンマーでおもいっきり打ち付けてみたけどビクともしなかった。スキル凄ぇと思った。


 そんな感じで予選会場のアリーナも造られている。半円状に物見席があり、そちらは有料。残りは立ち見で無料となっている。俺たちはほかにも予選会場を回るので立ち見。


 せっかくなので、ビデオカメラを持ち込んで撮影する。上手く編集してMetubeで流そうかなぁなんて?


 マヤリスには獣人やエルフ、ドワーフなんて種族がいる。CGや特殊メイクじゃない本物が動き回り戦う姿。バズると思うんだよねぇ。


 ピムを俺が肩車をして、ピムがハンディカメラで撮影。アイリスは違う角度から撮影するために、別の場所でカメラを構え撮影している。ルナは俺の護衛兼チロルの護衛でもあるので俺の傍にいる。


 もう二試合の後ハヤテの番だ。ハヤテには派手にやれと言ってある。ハヤテたちの鎧には天宮商会のロゴマークが入っている。派手にやってうちの商会の知名度を上げる作戦だ。


 期待している。





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