118.役人が来ました

 もうすぐ二回戦が始まる。


 宴会モードのアイリスとルナから酒を奪ってお片付け。


 そうこうしていると、今度は衛兵を連れて一団がやって来る。


「騒ぎを起こしているというのはあなたたちですか?」


 少し身なりの良い男が話しかけてきた。役所の人間か?


「失礼だな。騒ぎを起こしたのはそこに転がっている連中だ。恐喝、強盗、殺人未遂の盗賊だ」


 体を震わせた男たちが転がっているほうを指差す。寒空の中すっ裸だから寒いだろうね。


 男たちは一生懸命首を横に振っている。


「ぷっ!?」


 役所の男が奴らの顔を見て笑いやがった。こいつ本当に失礼な奴だな。俺の前衛芸術を笑うとは。


「と、とにかく解放しなさい」


「なぜ、解放する必要がある? こいつらは盗賊だぞ? ちゃんとこちらで始末しておくから気にするな」


「ま、待ちなさい! この方は教国の司祭様ですよ! 解放しなさい!」


 こいつも馬鹿の一味か? 話しにならない。


「町の外では盗賊はどんな理由があるにせよ極刑のはず。それを見逃せというのか?」


 ここは町の中じゃない。の予選会場、いわばメディウス・キウムの法治外。メディウス・キウムの法ではなく、国際法が適用される場所になる。


 ちなみにだが、町の外で盗賊に襲われた場合は、その場で盗賊を殺しても問題ないことになっている。


「役所の人間が法を守らないんだ~。最低~」


「法を守らぬ者が役人とはメディウス・キウムも腐ったものよ」


「クッ……」


 ぐうの音も出ないようだ。周りにはいつの間にかギャラリーでいっぱいになっているから、ここで余計なことを言えば破滅だと気づいたのだろう。


「木っ端役人に用はない。解放してほしかったら上の者を呼んで来い」


「チッ……」


「舌打ちしたです!」


「ちぃ~」


 舌打ち男、一人の衛兵に指示を出して走らせた。


 ああ、ハヤテの試合が始まってしまう。早く終わらせてほしい。


 しばらくすると、更に大勢を引き連れた一団が到着した。


「何が起きている?」


 舌打ち男が、その一団のリーダーらしき男の耳元でゴニョゴニョ。


「ふむ。裏は取れているのか?」


「ハッ! 周りの者に聞き取りしましたが、間違いないようです」


 舌打ち男と一緒に来ていた衛兵が聞き込みをしていたみたいだね。


「証言が一致しているなら致し方あるまい。我々が口出しできぬ。好きなさせよ」


「本気ですか! 部長! あちらの方は教国の司祭様ですよ!」


「司祭だろうが教皇だろうが盗賊は盗賊。生殺与奪の権利を持つのは彼らだ」


 意外と話のわかる人のようだ。じゃあ、交渉しますか。


「こんなブタを殺しても利にならない。保釈金を払えば解放してやろう」


「保釈金?」


 この世界はラノベなんかのテンプレの奴隷制度なんてものはない。そういう面では真っ当な世界だ。奴隷になってすべてをチャラにできないという意味では厳しい世界でもあるけど。


 なので、金で解決しようと思う。


「こいつ教国の司祭なんだろう? こいつらの価値に見合った保釈金を持ってくれば解放してやる。言っとくがチャンスは一度きりだ。こっちは忙しいんだ。一の鐘以内に話を付けろよ」


「了解した。おい、教国に事の顛末を知らせてやれ」


「ハッ!」


「急げよ」


 何人かの衛兵が走って行った。


「ハヤテの試合間に合わないね~」


「そだねー。アイリスだけみんなの撮影してきてくんない?」


 正直、一時間で済むとは思っていない。二回戦の観戦は無理とみている。だけど、撮影だけはしておきたい。


「クートは?」


「解決するまで、ここを動けないっしょ? ルナは俺の護衛で残ってもらうし、ピムとチロルがいたらアイリスも撮影に集中できないだろうから居残り」


「わかった。じゃあ行ってくるね~」


「任せたよ~」


 突っ立ったま待つのも疲れるので、またシートを敷き直しテーブルをセッティング。つまみを出してルナとワインを飲む。ピムとチロルは毛布にくるまってお昼寝再開。


 衛兵の一団から白い目で見られているが気にしない。


「君は余裕だな」


 呆れた声で部長という人が声を掛けてきた。


「そちらの御仁は南区のナンバースリーだぞ。保釈金が出たとしても必ず遺恨が残るぞ?」


「遺恨? 報復されるってはっきりと言ったらどうだ? ろくでもない国なんだろう? 教国ってのは」


「私は役所の人間だからな、どちらにも肩入れはしない」


「役人だからねぇ。その割にそこの舌打ち男は教国寄りのような気がするが?」


「……」


 どうせ、賄賂でも受け取っているクズなんだろうし。


 あるいは、教国の出なのかもしれない。


 まあ、いいさ。どっちにしろクズってことだ。









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