会食
神楽と別れた後、僕は同じ店の中で待っている貴族の男と会食していた。
「いやはや、本日はお会いしていただきありがとうございました。実に有意義な取りきめを行うことが出来ました」
「いやいや、こちらこそ感謝する」
相手の貴族の格は伯爵であり、こちらは公爵である。
一応向こうが当主であり、僕は次期当主という立場なので、未だ向こうの方が上ではあるが、実質こちらの方が上と言える。
そのための僕のため口であり、向こうの敬語だ。
「それと、我が家の接待を満足していただけたようでよかった」
僕は向こうの、自分の前に立つやせ型の男である伏見伯爵家の火広の前に広がる空となった食事へと視線を送りながら口を開く。
ちなみにすべてを食べきった向こうに対して僕は何も食べていない。
「えぇ。それはもう素晴らしいものでした。もう満腹にございます。出来ればこのまま満腹の腹のままで高級な女を抱きたいところではありますが……」
「知っているだろう?九条家では娼婦などいないのだよ」
九条家の領地の強みは人口である。
交易路の中心に存在する九条家は商人が活発に商いをする場所であり、首都よりも人口の多い九条家の中心都市は世界でも最大の消費地である。
世界最大の消費地であるという魅力がここを発展させる。我が領地では人口こそが正義であり、それを維持するための全ての努力をしているのだ。
男の性欲を娼婦なんぞで発散させてなどたまるか。
「それでレイプなどの問題が起きないのはすごいことですよ」
「むしろ逆レイプの方が問題であるわ」
逆レイプ事象……男に集団の女で襲い掛かって一人の女がその男に跨って無理やり中出しさせてそのままデキ婚するのだ。
婦人会。
逆レイプで見事婚姻を果たしたものたちが行き遅れの女を救うために結成している逆レイプ専用組織である。
ちなみに九条家は結婚したものが増えるのは歓迎すべきなので婦人会は放置し、逆レイプによるデキ婚を認めている。
「そのような領地などあなたの場所だけでありますよ」
「うちの領地では結婚をしていない女は人ではないからな」
我が領地に蔓延る結婚信仰、子供信仰は凄まじいものがある。行き遅れとは男であろうが女であろうが人じゃない、差別階級なのだ。
九条家の人間であろうとも結婚していなかったら侮蔑の視線を向けられる領地なのだ。
そんな社会で蔓延る婦人会のおかげで貧困層の結婚も増えて万々歳である。
男は婦人会の標的から逃れるために大人しい貧相層の、孤児の女と婚姻を結び、逆に女も最近は孤児の男と結婚してそのまま実家の家業を継がせたり、就職させたりする例が増えている。
女は仕事に就けないので、そういう例も出てくるのだ。
「いやぁ、本当にすさまじい領地です。人間の価値観などこのようにも移ろいやすい……面白い例です」
「我が領地は常に発展しているからな。成功例であるのだから反発する人間も少ない」
どれだけ御託を並べようとも結局人は既得権力ありきである。
前世でクマを庇う阿保どもであっても実際にクマの手によって自分の大切な人が殺されればすぐに意見をひっくり返すだろうよ。
まぁ、そこらの連中に大切な人がいるのかという疑問もあるが。
「それでは本日はこの辺りで失礼させてもろう」
「えぇ。改めて本日はありがとうございました」
僕と伏見伯爵は互いに頭を下げ合う。
「それでは再びの確認となりますが……我が家の行う他家への焼き討ちを不問とし、そこで得た奴隷を蓮夜様が購入するということで問題ありませんね?」
そして、ここで長らく話した取り決め。
その内容に問題ないかを確認してくる。
「うむ。問題ない……宣戦布告の正当性は問題ない。だが、無垢の民を放置するわけにもいかぬ。人道支援の一環としてそちらで得た民を僕が買おう」
その言葉を耳障りの良い言葉へと変換しながら僕は答える。
「えぇ、承知しております……それではまたこうして会えることを祈っております」
「貴公次第だ。ではな」
僕は目の前の座る伏見伯爵を残して退室するのだった。
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