ネックレス
結局、老シスターは僕の要求を大人しく呑みこんだ。
元よりここは今いる子供たちすら満足に食べられていなかったようで、たとえ将来駒として使われることになろうとも断れるような状況にはなかったらしい。
「お兄ちゃん、全然見えない!どうなっているの?」
「すっごいー!真っ暗ぁー」
「ふふふ……それは秘密だとも。企業秘密というやつだ」
「「「かっこいいー!!!」」」
「にしても兄ちゃん、身長低いな」
「そりゃもう年のせいよ。僕ってば君よりも年低いもの」
「え!?俺よりも下なのか!?」
「うん、そうだよ。だから決して僕が背低いわけじゃないから」
「へぇー、そうなんだ!思ったよりも下なんだ!じゃあ、私のほうがお姉ちゃんなんだね!」
「……いや、君よりは上だね。身長は低いけど。ははは……」
「「「あっ……」」」
そんなこんなで僕という存在を認めさせた老シスターは大人しく部屋に隔離していた子供たちを開放し、その結果。
珍妙な格好をしたチビである僕は多くの子供たちから囲まれていた。
そんな僕のことを囲い、元気に振る舞っている孤児たちではあるが、その体は実に貧相である……しっかりと飯を食べ、健康的な生活をしている僕よりも孤児の方が身長高いのは何故なんだ。
数としては三十人ほど。
年齢一桁が十人くらいで十は超えているのが二十人くらい。
十四歳の女の子三人がここの最高年齢であるようだ。
「……よっと」
子供たちにこれ以上無いほど囲まれていた僕はその子たちの包囲を抜ける。ずっと子供たちの相手をしているわけにもいかない。
「君たち、掃除があるんでしょう?ささっと掃除をしてきなよ。僕に構っていないでさ」
さらっと離れた僕は全員に散るように告げる。
「そうだよ、みんな!彼のことは後!ほら、掃除するよー!」
そして、僕を出迎えた若いシスターが全員の舵取りをして掃除を始めさせる。
「ごめんね、うちの子たちがうるさくて」
多くの子供たちから離れた僕に対して最高齢の孤児たち三人が近づいてくる。
「いやいや、子供は元気であってこそだからね」
「随分と大人びているんだね」
女の子たち三人の中で一番しっかりとしていそうな女の子が僕と言葉を交わす。
「……それで、お婆ちゃんから君がうちの孤児院をサポートしてくれるっていう話を聞いたんだけど、その話は……」
「あぁ、本当だよ」
僕は女の子の言葉に頷き、彼女たちの方へと視線を送る。
「これでも金は持っているから問題な……って、えっ!?」
彼女たちの方にしっかりと視線を送って、その後にようやく気づく。
三人の中で僕から最も離れ、長い前髪でその瞳の多くを隠している根暗めな少女の首元に下がっているペンダントに。
「これは……ッ!」
「きゃっ!?」
僕は彼女の方に近づいて件のペンダンテを手にとる。
そこにあるのは小さな翠色の宝石、淡く小さな光を放っている宝石であった。
「何をしているのじゃ!?」
ペンダントを無理に引っ張って手に取る僕に対して慌てて老シスターが近づいてくる。
「話が変わった」
「な、何のじゃ」
僕の真面目くさった声色の言葉を聞き、少しだけ体を震わせながら老シスターは疑問の声を上げる。
「確か、孤児たちに進路を強要することはないって言ったと思うけど、前言撤回。この子だけは別だ」
まさか、こんなところにいるとは思わなかった。
「改めて名乗ろう」
僕は外套を脱ぎ、自分の素顔を晒す。
「なっ───ッ!?」
「僕は九条蓮夜。九条家の次期当主にして枢機卿候補」
「……ありえん」
「は、はわわ」
「く、九条、けぇ……???」
「……知っているの?」
僕を知る老シスターは呆然と目を見開き、少し離れたところに立つ若いシスターは反射的にひれ伏し、多くの子供たちが九条家が何たるかを知らずに首を傾げ、子供のたちの中で唯一知っていそうな先程まで話していた女の子は呆然と口を開いている。
「少し、話良いだろうか?」
僕は自己の権力をこれ以上ないほど誇示しながら続く言葉を告げるのだった。
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