ゴブリンの巣穴
冒険者となって活動を始めた僕と神楽はせっせと冠位上げに勤しんでいた。
今日も今日とて冒険者としての活動を行う僕たちは大量のゴブリンたちと戦闘を行っていた。
「神楽、そっちいたぞ」
万を超える大量のゴブリン。
冒険者になったばかりの初心者が戦うような脆弱な魔物である彼らは緑の肌を持った二足歩行の生物である。
子供ほどの背丈に粗末な武器を扱う彼らは強いとは言えないが、それでも数が揃えば脅威となる。
「了解しました」
僕が大量に発射する不可視の刃で大量にゴブリンを殲滅し、そこから辛うじて逃れた
「っとと。雑魚どもの処理は以上かね」
五千を超えたあたりからゴブリンが巣穴へと撤退していき、いつしかゴブリンはこちらへと顔を見せなくなっていた。
「とうとう突入かね」
僕と神楽が受けたのは最近増えつつあるゴブリンの調査。
街の近くにゴブリンたちが住まう巣が大きくなっていないかの調査であった。
調査として称して恐れることなくゴブリンの巣穴へと真っ直ぐに向かい、ここにまでやってきた僕と神楽は既に巨大な巣穴へと入る入り口で五千ものゴブリンを殺した……大きくなっているかいないかの調査であればもう十分すぎる戦果であろう。
「よぉーし、サクッと滅ぼしに行くぞ」
「承知いたしました」
だが、適当にすべてを叩き潰してしまう方は良いだろう。冠位を上げるための
ちまちまとした依頼をこなしても全然冠位が上がらない。一週間かけてまだ濃黒にしかいけていないのだ。
大量に積みあがったゴブリンたちの死体で埋まってしまった入り口を固有魔術でこじ開けた僕たちは巣穴へと入っていく。
「暗いな。神楽」
「……灯れ」
僕の言葉を受けて神楽が固有魔術を発動させ、薄暗いゴブリンの巣穴を光の球によって照らす。
「これだけ多ければ幾つもの様々な種類の魔術を使うゴブリンエイジやすばしっこいゴブリンアサシン、強力なゴブリンジェネラル。国を壊滅させるほどの危険があるとされる王の魔物。ゴブリンキングが生まれている可能性もある。あまり油断するなよ?」
「承知しました」
僕と神楽は時折散発的に襲い掛かってくるゴブリンを倒しながら進んでいく。
「……うっ、ここは」
その果てに辿り浮いた一つの部屋に入った神楽は体を震わせて口を押える。
「生産場か」
僕たちがやってきたのは性処理道具、苗床としてこの場に放置されている虚ろな表情を浮かべている女性たちが地面を転がっている部屋であった。
生命を維持するエネルギー源、食物としてゴブリンの陰部からドロドロとした液体を摂取し、ゴブリンの子供を孕んで産むだけの女性がここには軽く数えただけで50人はいるであろう。あれらの大量なゴブリンはここから産まれたものであろう。
ゴブリンは一人の女が居れば一週間で三人産むのだ……それが50人となると少し放置するだけでとんでもない数になるのは想像に難くない。
「これだけ汚れていれば売ろうにも売れない。適当に聖の魔法で綺麗にしておいて放置しておけ。後で回収しに来る奴らがいるだろう」
「……承知いたしました。少しでもあなた達に安らぎがあることを」
僕の言葉を受けて神楽が手を組んで敬虔な信徒のようにして祈りを捧げる。
それだけで彼女たちを、部屋全体を包み込んでこの場を綺麗にして全員の意識を安らぎの闇へと落とす。
「済んだが?」
「大丈夫です。それでは行きましょう」
「うむ」
醜悪で悍ましいこの場を後にするべく僕たちは歩を進める。
「……一人頂くか」
神楽を先導させている僕はゴブリンの液体で命を繋ぎ、幾度も交わって子を孕み続けた女性を一人、回収してから今度こそこの場を後とする。
「……それにしても、悍ましいですね。あれは」
ゴブリンの巣穴をここまで広げた苗床たちが詰められた部屋を後とした神楽がぽつりとつぶやく。
「あれらでもまだ良い方である。ここは恐らく王の魔物が住まう宮殿であろうからな」
王の魔物。
数いる魔物たちの中でも頂点に君臨する種別の、同族を率いて軍となる強力な魔物。
随分と作りが立派な巣穴を歩く僕は神楽の言葉に答える。
「えっ?」
「もっと悍ましいのもある。人を改造する化け物や人を戦わせて見世物とするもの、人の悲鳴を奏でる怪物など……何の意味もない行為を楽しむもっと悍ましい邪悪も多い」
「……そ、それだけ」
「ゆえに魔物は我ら人類の敵とされているのだよ」
魔物が人類の敵とされ、未来永劫愛護団体など生まれないであろうと断言できる魔物の存在はどうしようもないほどに醜悪なのだ。
「覚悟したまえ。相手は覚悟した。敵はそこだ」
ゴブリンの巣穴の多くを探索し、最後にたどり着いた大きな扉。
そこをゆっくりと開ける僕は神楽へと告げる。
「承知しています……光あれ」
扉の向こう。
そこで待っていたゴブリンキングを含めた数多くのゴブリンの上位種、数万を超す小国の軍隊を超えるだけの戦力が一堂に会する巨大な空間。
僕たちが姿を現すと共に弾幕のように向けられる数千の魔術。
それらをすべて弾く光の結界を神楽は展開して安全を作り出す。
「蓮夜様に仇を為すものなんて誰も通さない」
「上出来だ」
そして、それに続くようにして僕も魔術を発動し、大量の不可視の刃を飛ばすのだった。
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