ゴブリンキング

 こちら側の戦力は僕と神楽のただ二人だけである。

 それに対して敵の戦力しては圧倒的な数にゴブリンの上位種である極力なゴブリンが数え切れない程多い。


「ふむ……魔物の生態が理解出来ぬ、魔術は一体どのようにして発動しているんだ?これ」


「……っ」


 傍から見ればこちら側が圧倒的に不利な状況だろう。

 だが、それでもこの場を支配していたのは僕たちの方であった。


「ほいっ!」

 

 自分へと向けられる火やら水やら雷やら、様々な種別の個性豊かな魔術をすべて切断して消し飛ばして、その代わりとして大量の不可視の刃を返していく。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 大量の血しぶきが上がる中で全身鎧をまとって大剣をもつ大柄なゴブリンの上位種たるゴブリンナイトが僕の懐にまで入り込んでくる。


「別に僕は近距離戦も苦手じゃないよ?」

 

 そんなゴブリンナイトが繰り出してきた豪快ではあるがそこまでの速さではない一振りを容易に回避した僕はそのまま力任せに頭を蹴りを入れて跳ね飛ばす。


「むしろ一番得意だ」

 

 ゴブリンナイトを皮切りにしてどんどんと距離を詰めてきた近距離戦を得意として進化したゴブリンの上位種を徒手空拳のみで血祭に上げていく。


「……」


 口を動かしながら自由気ままに戦って大きな被害をもたらす僕に対して神楽も同様に多くの被害をもたらしている。

 無言かつ無表情で淡々と近距離を得意とする者たちから逃れてただ執拗に魔法職ばかりを追いかけまわして剣を振るっている。


「なァ!」


 そんな神楽を何とかしようと動き出したゴブリンジェネラルなどが剣を振るったりもするが。


「……」

 

 己の肌を滑らすかのように最小減の動きで

 

「……ぎゃぎゃ」

 

 僕と神楽を止めることは出来ずにただただゴブリンたちの死体が重なっていく。


『ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 そんな中でゴブリンキングが大きな咆哮を響かせる。

 その瞬間にこれまでいたゴブリンたちの雰囲気が一変する。


「ひゅー」

 

 咆哮を聞くと共にその体から赤いオーラを溢れさせ、身体能力を大きく向上させたゴブリンたちに囲まれる僕は素直にこの場から逃亡して、異変を察知して引いていた神楽の隣へと降りる。


「蓮夜様……これは一体?」


「ゴブリンキングの能力だ。自身の部下が一万殺されたときにのみ発動できる最終奥義。己の部下、すべての能力を十数倍へと跳ねあげる」


 かつて、ゴブリンキングに率いられた軍勢と戦った大国は、隆盛を誇っていたのその大国は強国としての意地と誇りを踏みにじられながらゴブリンへと蹂躙された。

 そのような結果となってしまった理由の多くがこのゴブリンキングのみに与えられた特殊能力だ。部下の能力を十数倍にするというとんでもない効果の。


「……それは、凄まじいものですね」


「まったくだ……だからこそ素晴らしいのだがな」

 

 僕は神楽の言葉に頷くと共に笑みを漏らす。


「お前はもういらん」

 

 そして、僕は転移を発動させていともたやすく部屋の最奥にふんぞり返るゴブリンキングの背後へと立った僕は刃でもってゴブリンのキングの首を落として体は異空間へと仕舞って頭は普通にキャッチする。


「神楽。止まれだ」

 

 ゴブリンキング。

 己の王を、頭をあまりにも突然失ったことで同様の広がるゴブリンたちを狙うのであれば今だと踏んで動き出した神楽を制止する声を上げる。


「出過ぎた真似を致しました」


 それを受けて神楽は慌てて行動を辞めて一瞬にしてゴブリンたちから距離を取る。


「さて、と」


 ゴブリンキングの頭を抱える僕は魔術でもって一部のゴブリンを異空間へと落としながら部屋の中心へと向かっていく。


「君たちは自らの王を殺され、その下手人をそのままとしておくのか?」


 この場に残っているのは捨て駒として使いつぶされた知性なき下級のゴブリンではなく知性もプライドもあるゴブリンの上位種である。

 人語すらも理解する彼らが王を殺され、あまつさえそれらを愚弄されて、ここままでいられるものなんていない。

 ゴブリンたちは弾かれたように逃げた神楽のことなどに気にせず一直線に僕の方へと向かってくる。


「魔術には幾つもの派生がある。代表的なもので言えば己に与えられた術式の中でも更に詳しくして更に深くまで伸ばした魔術の進化系たる魔法」

 

 いくつかの興味ある重要な素体を回収し終えた僕は迫りくるゴブリンに囲まれる中。


「その魔法にもまた、派生がある」


 合わせた両手に大量の魔力を込め上げる。



「【魔法解放─刀─】」

 

 

 魔法の発動と共に己の手の内に出現するは桜吹雪を上げながら紫の光と共に来る鞘に納めらえた一振りの刀。

 すべてを、出すまでもない。

 

「死ね」

 

 鞘と鍔へと手を置いた僕はそのまま少しだけの美しい壺菫の色を宿す刃を僅かに見せる。

 ただそれだけで僕を中心として半径50m。

 それら範囲すべてを覆い尽くすようにして無限の刃が出現して吹き荒れる。

 

「……すごい」 


 残るはただの血だまりと離れたところにいたおかげで被害にあうことのなかった神楽、そして発動者たる僕だけであった。

 

 

 

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