報告

「……それにしてもやりすぎたな」


 強者たちの中でも一部ものしか使えない固有魔術の奥義の一つ。自分の手からしか発動出来ないという魔術のデメリットすらも無視出来る魔法解放。

 それを発動してすべてのゴブリンをただの血だまりへと変え、骨のひとかけらも残さなかった僕はぽつりと独り言を漏らす。


「これじゃ何がいたのか判別がつかんし、売れるものもなくなかった……まぁ、良いか。適当で」

 

「そうですね。別に冠位程度であればいくらでも上げられるでしょう。それよりもまずは早く街の方に戻って女性たちの保護を行うのが優先だと思います」


「まぁ、そうだな。さっさと戻るか」

 

 既に欲しいものは既に手にした。

 冠位や金銭なんかよりも重要な幾つもの素体が。


「えぇ、戻りましょう」


 僕は神楽と共に


 ■■■■■


「はぁ?ゴブリンの上位種を含むゴブリンの巣穴を壊滅させてきた……冗談は取り扱っていないんですけど」


「嘘ではない。この依頼書の通り調査に赴いた僕は場所だけではなく調査として中の地図も作ろうと思い、中に入ったらたまたまゴブリンに襲われたので全部殺した。ただそれだけだ。ちなみに地図は作り忘れた」


「……まだ貴方たちは白にもなっていない冒険者なんですよ?もう少し現実感のあることを言ってもらいたいのですが」


「少し調査するだけでいいのだが……」

 

 ゴブリンの巣穴を無事に叩き潰して街の方にも戻ってきた僕は早速受付嬢へと今日あったことの報告をしていたんだが、全然取り合ってもらえなかった……冒険者ギルドは少しの調査員も派遣出来ないほどに人員不足なのか?ただ人を派遣するだけで終わるような話なのだが。


「美鈴くん」

 

 僕がギルドの受付嬢と押し問答を繰り広げていた中、少しだけ慌てた様子でやってきたギルドマスターが口を開く。


「調査員を派遣してやってください。嘘であれば嘘で構いませんし、本当であれば長らくゴブリンに囚われていた女性が多くいるということです。であれば急を要します。そうでしょう?


「ですが……」


「美鈴くん」


「承知いたしました。それでは派遣員は……」


「俺が行こう」

 

 受付嬢が誰を派遣するかを決めるよりも前にずっと話を聞いていた一人の男が近づいてくる。

 西洋風の全身鎧をまとい、両手剣を背に背負っている男だ。


「俺であれば問題ないだろう?ゴブリンの上位種も湧いているようなところであっても」


「そうですね。秋斗様であれば問題ないでしょう。派遣員としてお願いします」


「美鈴くん」

 

 話がまとわりそうだったところにギルドマスターが更に口を突っ込んでくる。


「はい、何でしょうか?」


「君も行きなさい」


「えっ!?なんで私も何ですか……?」


「良いから。これは命令です」


「……わかりました」


 ギルドマスターの言葉に受付嬢が頷く。


「……」


 ギルドマスターさぁ、一応は僕のいる前でそういうやり取りはするなや。


「誰が来ても別に良いけどね……別にもう敵いないし。それじゃあさっさと行こう。僕たちはまだお昼も食べていないんだ」

 

 僕は内心の呆れた様子をおくびにも出さずについてくる二人へと告げるのだった。


 ■■■■■


 あそこの冒険者ギルドの中で最も冠位が高いらしい薄赤の冒険者であるソロ冒険者である大宮秋斗に冒険者ギルドで受付嬢として働いている美鈴。

 それに加えて僕と神楽で再びゴブリンの巣穴へとやってきていた。


「何、ここ……」

 

 巨大な巣穴への入り口の前に立つ受付嬢と秋斗は呆然と立つ。


「ど、どれだけの量がいるんだ!?」


 入り口もさるものながら、そこに積み上げられた大量のゴブリンの死体を見て。


「五千より先は数えていない」


「五千!?何ですか!?その数は、前代未聞ですよ!?」


「この程度で驚くな。中にももっといたし、一応ゴブリンキングとかもいたぞ。もう何も残っていないが」


 僕が保管していたり、魔法解放で消し飛ばしたりで文字通り何もないものも多い。


「いやいや!一国を上げて倒すべき案件じゃないですか!」


「受付嬢。我が国を舐めすぎだ。この程度に国を挙げる必要もない。今、急速に技術革新を迎える過渡期にあるのだぞ、我が国は」


「……なんでそんなことを?」


「よくあるだろう。貴族が戯れに冒険者となることなど。僕もそれだ。あぁ、当然。わざわざここで跪くなよ?隠しているからな」


 貴族が冒険者になる例は結構多い。別にそこまで珍しい者でもないだろう。


「……実際に言っている人は初めて見ましたよ」


「なんとなく察せられる人もいるが……」


「言えないのは家での立ち場が微妙であったり、冒険者になったという事実がマイナスに働いたりするよな下級貴族であるからだ。僕であれば問題になりようがないのだ。どれだけ言おうとも問題はない」


「……こっちが問題な気がするのですが」


「俺、普通に場違いか?」


「気にするな」

 

 僕は不安そうな表情を浮かべ出した二人の意見を切り捨てる。


「ほれ、まずは最奥の方に行くぞ。半分以上がただの血だまりになったが、それでもかなりの数のゴブリンの死体があるはずだ」


 そして、僕は神楽たち三人を連れて巣穴の最奥、血の川を氾濫させている巨大な扉に遮られていた最奥へと向かっていくのだった。

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