絡み

 日野美香麿の甥である輝夜が僕たちに絡んできたのは神学校転入初日のことである。

 しっかりとそこで格付けを行った僕に絡んだくる奴らは基本的にいない。

 たとえ、貧民街出身の女を連れていようとも。まぁ、逆に貧民街出身の女への差別意識がある神学校に通う優秀で名家生まれの子供たちは桜花だけではなく僕にも話しかけてこないが。


「おぉおぉ、教室に入るなり臭い匂いが漂っているかと思いきや教室の中に落ち目の九条家の人間に貧民街の雌がいたのでは当然だなぁ!」


 そんな中で、未だに輝夜は僕へと突っかかってきていた。


「お前、逆に凄いな。ガッツが」


 毎回雑にあしらわれ、初日には意識も簡単に奪われた相手に必ず上から目線で絡みに行けるのも逆に才能だろう。


「……ちょっとだけ、面白くなってきている」


 最初は輝夜に怯えていた桜花も今では毎回のように倒されてもなおやってくる


「何を言うか、日野の。そもそもお前らの家の家督はなんであるか?公爵家が臭いのであればお前の家は便所か?」


 彼へと視線を向けた僕はしっかりと言葉を返してやる」


「かっかっか。この匂いは腐敗臭だ!己の立場に胡坐をかき、同じ場に居続ける九条家からは腐った腐敗臭が漂ってくるわ!まるで生ごみに腐った貧民が転がる貧民街のようにな!枢機卿の立場を失う日も近いわ!」


 枢機卿の立場を失うことなんて万が一にもない。

 だって、指名権は誰にも侵されるものじゃないし。


「そもそも九条家は枢機卿である前に太政大臣を歴任しているのだが……あまり、政府に盾突かない方が良いぞ?天皇陛下のご威光を知らぬわけではあるまい」


「……ぐぬぬ」


 杷国の民が天皇陛下に寄せている信頼と尊敬の念は非常に大きい。

 天皇陛下が神導を朝敵認定すればどれだけ杷国ではやっている宗教だろうと民衆の敵へと成り果てる。

 そして、そんな天皇陛下は基本的に君臨せずとも統治せず、だ。

 政府の流れに逆らうことはあまりない。


「……ぬぬぅ!!!」


 天皇陛下の名前を出せれてしまえばいくら輝夜と言えでもどうやっても反論できない。


「明日からそれは禁句だ!それ使ったら反則だからな!覚えておけ!」


 あまりにも一方的暴論を語る輝夜は勝手に一人で満足して自分の席へと向かっていく。


「……はぁー」


「毎回元気だよね……あの子。なんか、もう慣れちゃって暴言にも何も感じなくなちゃった」

  

 もう輝夜、実はこっちの味方だったりするんじゃないか?マジで味方だったりしたらこっちで迎え入れてもいいぞ?


「よーし、いつものも終わったことだし、そろそろ全員席につけー。授業を始めるぞー」


 そして、そんな輝夜が席についたタイミングで教卓の前に立っている先生が言葉をクラス中に届けさせる。


 別にこのクソみたいなやり取りは先生の方から止めてくれて良いんだけどね?まぁ、別に九条家がどれだけ舐められようとも今の段階では問題ないからくだらない押し問答に付き合ってやっても良いけどさぁ。

 

 僕はそんなことを考えながら始まった授業に一生懸命食らいついている桜花をよそにそろそろ迎えに行ってあげなければならない神楽のことを思いを馳せるのだった。

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