薬物
「んっ……ぁ、あぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
順調に杷国の北部を統治し、腐敗し続けていた領主たちの手によって堕落していた北部を立て直すだけの手腕を見せつけた神楽は既にすっかり北部の多くの人たちの信頼を掴み、頂点に立つ者として認められていた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……蓮夜様ぁ」
そんな彼女に陰りが見え始めたのは今より少し前のことだ。
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」
普通に仕事しているかと思いきや突然発狂しながら倒れて、泣き喚いたり、気絶したり、普通ではない仕草を彼女は見せ続けているのだ。
当然、北部の人間は知る由もないが、この理由は常に彼女が接種し続けていた薬である。
既にこれ以上ないほどに薬物へと依存していた彼女はそれを切らせてしまえばもう平常心ではいられなかった。
「……どうして、神楽様が……」
「あれだけ凛とされていたお方が……どうして、このようなお姿になってしまわれたのですか……」
「九条家との連絡は取れたのか!?」
「今まさに早馬を出したばかりです……そろそろ返事が返ってくるような時期だと思いますが」
これが常に接種していた薬物が切れたからであるということを知らない北部の人間として神楽へと忠誠心を捧げ、彼女を支え続けてきた者たちは混乱し、解決してくれる可能性のある九条家、九条蓮夜に縋る他ない。
「ぁ、あぁぁぁ……あぁぁぁ、足りないぃ。満たされないぃ」
今の神楽は思考力が落ちているわけではない。
ただ、平常心を保っていられないほどの喪失感があるだけだ。
「あぁぁぁぁぁ、蓮夜様ぁ」
九条家が他人を洗脳する際に使う薬物───薬を断てば抗えない喪失感を与えるような性質を持ちながらも当人の体には一切の害を与えない特殊な薬物。
「……蓮夜、さまぁ」
その果てにあるのは薬を摂取した際の喪失感を埋めるもの誤認。
薬ではない別の何かを己の喪失感を埋めるすべてであると誤認させてしまうこともある九条家の薬物が齎す最終的な到着点まであと少しであった。
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