神学校

 神学校への入学手続きは簡単だ。

 入学申請をすれば終了。

 年中生徒は募集しているので入学式なんてものはないし、どんなタイミングで入っても良く、どんな人も適当なクラスに転校生として追加される仕組みとなっている。


「あぁ……うぅ」


 僕たちが通うことになった神学校で教えることは基本的な一般教養ばかりだ。

 数学や国語、歴史に地理、魔法学などだ。

 基本的に貴族であれば親から教わっているような常識とも言える知識ばかりであり、授業で苦労することはないだろう。


「……うぅ、わからない」

 

 だが、貧民街に住む桜花はその限りではない。

 彼女は難しい授業を前に撃墜し、コテンパンに倒されていた。頭からは知恵熱による湯気が上がっている……そこまでのことか?


「まぁ、仕方ないさ。初見じゃ難しいだろう」


 僕は若干の疑問を思いながらも彼女を励ます。


「おいおい……そんな簡単なこともわからないのか?」


 そんな会話をこなしていた僕と桜花の元に数人の取り巻きを引き連れた一人の男が近づいてくる……あぁ、確か……そう、彼だ。

 美香麿の甥である日野輝夜くんだ。美香麿の末の妹が産んだ子供であるこいつはそうか、神学校に通うような年齢であったか。


「僕を誰だと思っている?凡夫。去れ」


 輝夜へと視線を送りもしない僕はぞんざいな態度を見せてさっさと追いやろうとする。


「ハッ!落ち目の九条家の人間が何を言うか!俺は今、勢いある日野美香麿様の甥だぞ!誰に物を言っているのか!」


 そんな僕の言葉に対して輝夜は自信満々な態度で大きな声を上げる……美香麿よ、どう考えても僕へとぶつける相手間違えただろう。

 どれだけ落ち目になろうとも立場は変わらないんだぞ?


「落ち目?我が家が?」


 ついでに言うと九条家は別に落ち目というわけでもない。


「落ち目であろう!日野様の勢いに恐れおののくことしか出来ぬ男どもがァ!」


 確かに、若干押されつつはあるが、もとより枢機卿も教皇もすべて九条家の傀儡だったのが一昔前なのだ。

 それが今はちょっと反発する枢機卿が居て、自身の傀儡である教皇がボケているせいでうまく操れていないだけなのだ。元々が強かっただけで別に今も完全に力を失ったかと言われるとそういうわけではない。


 ついてに言うと、杷国における五貴族家の一つっていう肩書きを舐めすぎだよね……別に、僕たち五貴族家の仲はかなり良い。

 もう全員が家族であると言えるほどに政略結婚を繰り返しているし。


「ふっ……落ち目なのは教会の方だろうよ。人は神を慕いながらも金銭と科学を己の中に抱えるようになった」


「なっ!?貴様!その言葉、我らが神々へとの冒涜か?!民衆も民衆である!金や下らぬ情報に躍らせれおって!忌々しい!」


「それは神の御心が判断なさることであり、我らに選択権などないとも。忘れたのか?我らは神の御心を推し量るのではなく、その御心を鎮め、我らの生活を守るだけである。神々がたとえ、金銭と科学を容認せずとも我らが鎮めればいいのだ」


 明確な教典なんて神導には存在しないため、地動説などと言った化学と衝突したりすることはない。

 時代が変化する中で生まれる波と衝突するのは神の御心ではなく既にいる既得権益者である。


「何を言うか!何の意思も組み取ろうとしないなどただの愚か者でしかないわ!何を考えているのだ!」

 

「我ら如きが神の御心を図ろうなど恐れ多いにもほどがあるだろう。何だ?その程度のことも理解出来ないのか?」


 深々とため息を吐きながら輝夜の目の前へと立った僕はそのまま彼を見上げる。


「……ッ!」


 殺意を込めて。


「勘違いするなよ、唯の凡夫が。神々の元に生まれし我ら九条家に何かできるわけがないであろう」

 

 僕から向けられる殺意に体を静かに震わせ始めた輝夜の顔へとゆっくりと手をかざす。


「眠っていろ」


 僕は魔術を発動。

 人の意識のみを切断する精神攻撃魔法を発動させ、輝夜の意識をそのまま奪う。


「おい、お前ら」


「「「は、はいっ!?」」」

 

 そして、ここまで輝夜の背中でおどおどしていることしか出来なかった輝夜の取り巻きたちへと声をかける。


「今すぐこれを連れて去れ。一時間ぴったりに起きる」


 そして、僕は彼らに輝夜の後処理を任せて桜花の元へと戻るのだった。

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