邪龍討伐①

 いくら屈強にして神話で語られるような古きを生きる邪龍といえども、所詮は只の生命である。

 千年、万年を生きればボケるのも当然である。

 長き年月でその狡猾さも邪悪さも失い、自分を見失いかけているボケ龍。 


『ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』


 だが、そんな龍であってもその身に宿る力だけはなくなることはない。

 かつて変わらぬだけの力を持つ邪龍は何処まで行っても特級の魔物であった。


「……ッ」

 

 蓮夜が作った聖剣を元として作った劣化コピー品である魔剣を手に持つ神楽は光に質量を与えた幾つもの足場を宙に作って


「光武!」

 

 そして、同じく光に質量を与え、魔を祓う属性までをも付与した幾つもの光の剣を作り出す。


『ガァァァァッ!?』


 十の光り輝く剣をその身に受けた邪龍はその身より黒い瘴気を噴き出しながら悶え、苦しみながらも神楽の方へと己の視線を向ける。


『───ッ!!!』

 

 そして、その口より闇のブレスを放出する。


「光防!」

 

 そのブレスを神楽は魔を寄せ付けない性質を持った光の盾を作り出すことですべてを防ぎきってみせる───山を消し飛ばし、神話にも語られるようなその強力無比な邪龍のブレスを。


「……かったい!?」


 その間に邪龍との距離を詰めていた神楽は邪龍の体へと足をつけ、光で強化した魔剣をその身につけ、邪龍の鱗を切り裂きながら真っ直ぐに進んでいく。


『……ガァ』


 凄まじい速度で邪龍の体を走り抜ける神楽はどんどん邪龍の身へと刻みこまれた傷を増やしていく。

 

「……ッ!?」

 

 いつの間にか、邪龍の傷口から溢れていた瘴気が幾千もの触手となって形を持ち、神楽の足へと絡みついていた。


「光武!」


 神楽は慌てて自分の周りにある触手を消し飛ばそうと幾つもの光の剣を飛ばす。

 だが、彼女が光の剣ですべてを祓うよりも、触手が神楽を囲む方が速かった。


「……あっ」


 瞬きの間に自分を覆い隠すように展開された瘴気の触手を前に神楽は呆然と声を漏らして、その動きを止める。



『気をつけろ。敵はそこらにいる凡夫ではないぞ?』



 完全に神楽が瘴気の触手へと飲み込まれる寸前で蓮夜が転移の魔術を用いて彼女を脱出させる。


「すみません、蓮夜様……次こそは、完璧に決めてみせます」


 それに対して神楽は一度、自分の中に吹き上がった複雑怪奇な感情をすべてを抑えこみ───。

 否、完全には抑え込めなかった喜びの感情をその表情に見せながら、瘴気の触手を纏い、その禍々しさを上昇させる邪龍へと熱い情欲の浮かぶ視線を向けるのだった。

 

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