九条家

 仇が剣に命じて焼いた華生村からマッチポンプ的に助けてきた少年、天野神楽を九条家の屋敷へと僕はそのまま連れてきていた。

 

「こ、こ、えっ?……な、何この豪華なの……」

 

 華生村から九条家の屋敷へと戻ってくる中である程度メンタルが回復した神楽は目の前に広がる巨大な屋敷を見て体と声を震わせる。

 九条家は杷国の貴族の中でもトップ中のトップの大貴族だ。

 当主は代々、杷国の中で絶対の力を持つ宗教である神導の枢機卿と太政大臣を歴任する名家である。


 それにしても、前世の記憶から考えるとこの世界の違和感凄いな。

 ここが日本風の国なのにも関わらず魔術があり、西洋に近い権利構造をしている宗教であり、鎖国をせずに世界と貿易を持つ。

 差は歴然である。


「ようこそ、九条家へ。ここがこれからの君の我が家だと思って構わないから」


 そんな事を考えながら僕は困惑する神楽へと声をかける。


「……えっ?こ、これが俺の……?」


「そうだね……と言いたいところなんだけど、流石に急すぎてまだ君の分の部屋を作れていないんだよね。申し訳ないけど、母屋の離れ。離れ屋敷で過ごしててほしいんだけど良いかな?」


「もちろんです!む、む、むしろこんな立派な屋敷で過ごせと言われる方が……」


「どうせ大したものは置いていないし、そんなこわばることはないけどね……離れ屋敷はこっちだよ」


「う、うん……」


 歩き出した僕の後を神楽はおずおずと遠慮がちについてくる。

 

「どう?我が家の庭園。僕はあまり興味ないはないが、僕の父が庭園好きでね。高名な庭師を雇って作らせているからそこそこ物が良いと思うんだけど」


「えっ!?あっ、きれいだと思う!……います!お、俺がこんなところを通って良いの、か?」


「問題ないよ」

 

 僕は神楽と共に庭園を通りながら母屋から少し離れたところにある離れ屋敷へとやってくる。

 離れ屋敷と言っても九条家の建物。

 母屋と比べれたら落ちるが、それでもかなり立派な建物である。


「俺の村の近くにあった街の長のよりも遥かに……」


「これでも日本最高峰の貴族家である九条家だからね。離れ屋敷であってもただの街の領主ごときの屋敷とは大きな差があると思うよ。ささ、入って」


「し、失礼しますぅ……」

 

 僕から背中を押される形で神楽はか細い声を上げながら離れ屋敷へと入っていく。


「それじゃあ、簡単に家の紹介をしていくから」

 

「は、はい!」

 

 僕はリビング、キッチン、トイレ、風呂……等々、離れ家の中を神楽へと案内をしていく。


「それでここだけど」

 

 手短に説明をまとめながら最後にたどり着いた場所。

 一つの部屋の前に僕は神楽と共に立つ。


「ここはちょっと特殊な部屋だから僕と一緒の時以外入らないで。ここは母屋の方とも廊下で繋がっている部屋だから」


 離れ屋敷。

 その目的としては庭を楽しむためだったりと様々な目的があるが、我が家における離れ屋敷の使い方は褒められたようなものではない。


「でも、今日は僕がいるから入ろうか」


 宗教。

 それを活用して行う最も素晴らしい行為とは洗脳活動である。


「えっ、あ。はい」

 

 僕は目の前の部屋の襖をゆっくりと開けていく。

 その襖から漏れ出すのは煙。桃色の煙であった。


「えっ……ぁ、え?」

 

 僕の隣に立つ神楽が煙を吸い込むと共に彼は体のバランスを崩して床に尻もちをつく。


「ふふっ……さぁ、入ろうか」


 煙を吸ったことで一瞬にして表情を蕩けさせた神楽の体を優しく抱き上げて部屋の中へと入っていく。


「……何、ここ……かが、み?」


「何もおかしなことはない……普通の部屋だろう?ねぇ?」


「……えっ、あ……うん」

 

 僕は神楽のすぐ耳元で言葉を告げ……それに神楽は何の疑問も抱くことはなく頷いて受け入れる。


 この部屋は代々九条家が他者を洗脳するのに使っていた部屋である。

 特殊な魔法が込められた鏡が四方の壁と天井一面に広がっている。

 鏡でないところは床の畳だけであり、少し周りを見るだけで己の姿を確認できるここは明らかに普通ではないだろう。


 そんな部屋で焚かれているお香。

 甘ったるい匂いを発する桃色のお香も特殊なお香であり、これを吸うだけで常人であればたちまち己を失ってしまうであろう。

 大麻や覚醒剤なんかよりも遥かに強い薬である。


「さぁ、服を脱いで」


「……ぁ、え?」

 

 僕は無駄のない動きで神楽から服を剥ぎ取って全裸とし、そのまま己の魔術によって作られた異空間から引っ張り出した女物の着物を着せていく。


「お、俺は……っ」


「俺、なんて強い言葉を使っちゃ駄目だよ?私、ね?」


「わ、私はぁ……」

 

「さぁ、吸って、吐いて?」


「……すぅー、はぁー」

 

 お香のせいで頭が上手く働かず、まともに思考することも出来ない神楽は僕の操り人形となって


「そう、それでいい」


 僕の飲ませたTS薬は心が女でなければ体に変化はない。

 心が生まれながらに女のものである男がこのTS薬を飲めばたちまちその姿を女へと変えるが、心が男である神楽が飲んでもその体が女になることはない。

 故に神楽をTS化させるのであれば薬で調教してその心を女に変える必要があるのだ。


「さぁ、おいで?」


「……ぁ、うっ……」

 

 僕はその場に正座して神楽の頭を己の膝の上へと乗せ、その頭を撫でる。


「このまま僕の立派な手駒になっておくれよ?」

 

 既にまともに考えることができなくなっているであろう彼女の頭を撫でながら告げるのだった。

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