第四十四話 リックの出立
「……あ~めっちゃ疲れた……」
どっと疲れが押し寄せて来たことで、俺はその場で仰向けに倒れると、
ようやく。ようやくフェリスさんに勝てた。それも、今みたいな理想的な勝利法だ。
この為に、色々と戦略を考えてきたかいがあったな……
「……お疲れ。でも、これでリックはもう冒険者になる為に街へ行っちゃうの?」
フェリスさんは寝転がる俺の横に座り込むと、俺の頭を優しく撫でながら、やや悲し気にそう言う。
「ああ。フェリスさんに勝てたら、冒険者になるって決めてたからな」
フェリスさんの言葉に、俺も若干寂しげに言う。
そう。俺は前に、フェリスさんに勝てたら冒険者になる為に街へ行くと決めたのだ。
……いや、最初は上級魔法がまともに使えるようになったら……だったのだが、鍛錬していくうちに意外にもフェリスさんといい勝負が出来るようになってきちゃって、結果調子に乗ってあんなデカいこと言っちゃったって訳なんだけどね……
「うん。じゃあ、行くときになったら、出立祝いにいいものをあげるわ」
「そうですか……ありがとうございます」
ニコリと笑いながらそう言うフェリスさんに、俺は少し照れ、目を背けながら頷く。
2年過ごして、ある程度慣れたとは言え、流石に笑顔を向けられたら照れるんだよ……
「そ、それじゃ、家に戻りますか」
照れ隠しとばかりに俺はそう言うと、よっこらせと立ち上がった。
「ふふっ そうね」
フェリスさんはそんな俺を見て、微笑ましそうに笑うと、俺と共に家に向かって歩き出した。
数日後、俺はフェリスさんと共に家の前に立っていた。
そんな俺の服装は、普段のような簡素な服装ではなく、魔物の皮で作られた冒険用の服装だ。
茶系の服に、今の体では少し大きめに感じるような黒い外套を羽織っている。
そして、片手には鍛錬でいつも使っていた魔法発動体の杖。
これら全て、フェリスさんから出立祝いとして貰ったものだ。
フェリスさん、マジ感謝!
さて、名残惜しいが、そろそろ行かんとな。
別に今生の分かれって訳でもないから、そう悲しむこともないのだが、それでも口は少し重い。
「……それじゃ、行くか。また、気が向いたら来るよ」
何とか俺は別れの言葉を紡ぐ。
「……うん。私もリックに着いて行きたかったけど、里から言われた仕事があって、ここから出ることは出来ないのよね」
フェリスさんは残念そうにしながらも、まっすぐ俺を見据えながらそう言う。
にしても、里から言われた仕事って何なんだろ……?
まあ、俺が気にすることじゃないか。
「ふぅ。魔力よ。纏いし風となりて我を包み、天へと飛ばせ。
俺は完全詠唱で
そして、勢いよく地を蹴ると、上空へ飛んだ。
「未来に向かって、頑張ってねー!」
その後、後ろから聞こえて来たフェリスさんの言葉に手を振って応えると、一気に街に向かって加速した。
俺がこれから向かうのは、エルニアという街だ。そこが、ここから最も近い場所にある街らしい。
エルニアへ向かうのに、ここから徒歩なら1週間近くかかってしまうが、俺レベルの魔法師が空を飛べば、なんと昼過ぎに出ても、日が暮れるよりも前に着くことが可能なのだ。
「冒険者ギルド。冒険者……か。凄く、楽しみだ」
ファンタジー世界の代名詞にして、ずっと憧れていた冒険者に思わず胸を膨らませながら、俺は更に飛行速度を加速させるのであった。
日がそこそこ傾き始めた頃――
遠方にうっすらと開けた場所が見えてきて、俺は目を見開く。
「平原か……で、あの茶色い伸びているやつは……街道。で……お、あれがエルニアか!」
うっすらと遠方に見えて来た城壁。あれは十中八九、エルニアという街を魔物等からの襲撃から守るためにある城壁だ。
「よし。そろそろ高度を下げて、着地したら、街道に出るか」
流石に街へ上からダイナミックお邪魔しますなんてしたら、一発で逮捕案件なので、ここは面倒でも、ちゃんと門から入るとしよう。
その際に一旦街道に出て、そこから歩いて街へ向かう理由は、流石に森から身元不明の子供が出てきたら怪しまれるかなと思ったからだ。普通に街道を歩いて入れば、ただ普通に旅をしている子供だと思ってくれることだろう。
怪しまれたら、非常に面倒くさい取り調べが待っているのは目に見えているからな。
そう思いながら低空飛行に切り替えた俺はそのまま街道にそっと出ると、
そして、そのままザ・平凡!って感じの雰囲気を出しながら、街があった方角に向かって歩き始めた。
数分後、街に辿り着いた俺は、そのまま門をくぐろうとする――が、予想通り、衛兵に声をかけられる。
「冒険者かい?」
「いや。これから冒険者になるつもりだ」
「なるほど。一応持ち物チェックをさせてくれ」
「分かった」
俺は頷くと、素直に持ち物チェックに応じる。と言っても、持ち物はこの杖と、初期費用としてフェリスさんから貰った銀貨4枚だけだけどね。
「ふむ、これで全部か。隠し持っている感じでもなさそうだな。んじゃ、通ってよし。冒険者ギルドは正面の大通りをまっすぐ行けばすぐに見つかるから」
「ああ。ありがとう」
簡単な質問と荷物検査を終えた俺は衛兵に礼を言うと、そのまま門をくぐり、エルニアへ入る。
「ほう……これぞ異世界の街と言った感じだな」
中世風の建物、石畳で出来た大通り、賑わいを見せる人々。
4年程前にリベリアルという街へ家族と行った時もそうだが、この感動は今だ忘れられない。
「……おっと。さっさと行って、今日中に冒険者登録だけでも済ませとかないと」
夕方になると、依頼を終えて帰って来た冒険者たちで、冒険者ギルドが混むと聞いたことがある。
あと1時間弱で夕方になるだろうし、今の内にいかないと。
そう思った俺は、大通りを走り出した。
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