第八話 目覚め

 暖かくて柔らかい布団に包まれているような感覚。

 これは……夢?

 そう思いながら、レイはゆっくりと目を開ける。


「……知らない天井だ」


 ぼそっとレイは呟く。

 ふと横に目を向けると、そこには窓があり、暖かい日の光が差し込んでいた。


「夢じゃ……ない……?」


 この感触はどっからどう見ても現実だ。


「ううん……」


 何があって……


「あ……」


 段々と思い出してきた。


(そうだ。僕は街へ向かっていたんだ)


 生きるために。そして、あの事を皆に知らせるために――


「誰か……う……」


 村が襲われたことを誰かに知らせようと、レイは上半身を起こそうとする――が、体に力を入れた瞬間、激しい痛みに襲われ起き上がることが出来ず、ほんの少し体を動かすだけに留まる。


「痛い……」


 レイは苦痛で顔を歪める。

 まるで全身を引き裂かれるような痛みだ。

 とても……痛い。

 だが、だからと言って、人を呼ぶことを諦めるつもりは毛頭ない。


「だ、誰かー!」


 レイは振り絞るように、声を上げて人を呼ぶ。

 すると、「何だ何だ?」という困惑したような声と共に、1人の男がこの部屋に入って来た。

 赤髪赤目。軍服のようなものを着た、いかにも明るそうな若い男だ。

 男は目を覚ましているレイを見るや否や、嬉しそうに声を上げる。


「お、ようやく目を覚ましたか!」


 そう言って、男はレイの直ぐ傍まで歩み寄る。

 この人は一体誰なんだろう?

 そうレイが不思議に思っていると、その疑問に答えるように男は口を開いた。


「おっと。まずは自己紹介だな。俺の名前はアレク。ここ、リベリアルの衛兵だ。君の名前は?」


 男――アレクはその場でしゃがみ、レイに視線を合わせると、そう言って自己紹介をする。


「僕の名前は……レイ」


 レイも、アレクの言葉に従い、自己紹介をする。


「そうか。レイ君というのか。いい名前だな」


 アレクはそう言って、ニカッと笑う。

 レイ。

 この名前は、父――グレイがつけてくれた。

 グレイの名から1文字とると、レイになる。


「ありがとうございます……あ!」


 そこで、レイははっとなる。


「あ、あの! 村に行ってください! 村が襲われたんです。お願いします! 早く、早く助けないと……僕も、行きますので」


 悲痛な声で、レイはアレクにそう訴えた。

 すると、アレクは落ち着かせるようにレイの頭を撫で、口を開く。


「レイ君。落ち着いて。既に君の村へ部隊は派遣されている」


「そ、そうなんですか?」


「ああ。だから、レイ君はその体を治すことを優先してくれ。今のレイ君は極度の疲労で、体がボロボロなんだ。1週間は安静に、ベッドの上で寝てないと駄目だぞ」


「うん……分かった」


 アレクの言葉に、レイは安心したように息を吐くと、頷く。

 既に人が向かっているという事実が、レイの心に多少の余裕を与えているのだろう。


「よし。それじゃあ、休んでいるといい。食事は朝昼晩、ちゃんとここに持ってくるからそのつもりで」


 落ち着きを取り戻したレイを見て、安心したように息を吐いたアレクは最後にそう言うと、立ち上がった。

 そして、そのまま部屋を去って行った。

 一方、1人部屋に残されたレイは、天井をぼんやりと眺める。


「お父さん。お母さん。みんな。大丈夫かな……」


 不安に満ちた声で、ぼそりとレイはそう呟く。

 あの時、僕を逃がすために戦ってくれたお父さん。

 村のために、村中の人々に知らせに行ったお母さん。

 そしてリック――

 大切な人たちの顔が次々とレイの脳裏に浮かび上がってくる。


「お願い。どうか、生きててください……」


 まるで神に祈りを捧げるように、レイは唇を震わせた。

 その時、1粒の涙がレイの頬を伝って、布団に零れ落ちた。

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