第十九話 バルトvsレイ
「いててて……負けたぁ……」
地面に倒れたエリーは、脇腹を抑えながら悔しそうに言う。
「大丈夫?」
痛がるエリーに、レイは思わずそう問いかける。
身代わりの護符があるから怪我はないと分かってはいるものの、それでも心配なものは心配なのだ。
「大丈夫大丈夫。バルト君の時と比べるとマシな方だし」
エリーは余裕そうな表情を取り繕いながらそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ……だいぶ良くなってきた。次はバルト君とだね。私はレイ君を応援する! バルト君なんかぶっ飛ばしちゃえ!」
エリーは「やっちゃえー!」と楽しそうにレイを後押しする。
「おいおい。俺を応援しろよ!」
そこに、バルトが文句を言う。だが、エリーはめんどくさそうに口を開く。
「え~何かやだ~」
「ちっ まあいい。お前の応援なんていらねぇ。勝つのは俺だからな」
バルトは自信満々にそう言うと、指で杖をくるりと弄ぶ。
どうやらバルトはあの体格で、魔法師のようだ。
(……いや、僕みたいにどっちも出来る可能性だってある。気を付けて戦わないと……!)
あの体格で、魔法戦しか出来ないとは考えられない。どう考えても肉弾戦も出来る。
そう判断したレイは、両方に対処できるやり方を思案する。
(初手は詠唱魔法を使って……接近は結界を使って……)
「……よし。やるか」
そう呟くと、レイは木剣を地面に置き、代わりに杖を手に取った。
そして、杖をぎゅと右手で握りしめると、軽く息を吐く。
「へぇ。お前も両方やれるタイプか。こりゃ楽しめそうだ」
バルトはレイの杖を見ると、獰猛な笑みを浮かべながらそう言った。
今のバルトの発言から、バルトが肉弾戦も可能だとレイは確信する。
その直後、ハリスが口を開いた。
「よし。早速始めるか。それじゃ……始めっ!」
こうして、レイ対バルトの戦いの火蓋が切られた。
「魔力よ。3本の光の矢となりて敵を穿て」
「魔力よ。纏いし風となりて我を包み、強化せよ」
レイとバルトが詠唱を始めたのはほぼ同時だった。
「
そして、僅かにレイが早く詠唱を終え、3本の
「
その直後、バルトも詠唱を終え、
「はあっ!」
バルトはその強化された身体能力を生かしてと地を蹴り、大きく上へ跳ぶことで、
そして、上へ跳び出した瞬間に詠唱を始める。
「魔力よ。足場となれ。
6メートル程上に上がり、徐々に下へと落ちかけたところで無詠唱の1つ手前の技能である短縮詠唱で
脚力による加速に重力も加わったことで、今のバルトの速度はエリーの刺突よりも速い。
だが、反応できない速度ではない。
「魔力よ。
レイも同じく短縮詠唱で
詠唱する暇がほとんどなかったせいで、強度は本来の3分の2程度だが、果たして耐えられるだろうか……
「おらっ!」
バルトの全体重と力をかけた渾身の一撃と
ピシピシ……ピシ……
直ぐにやばそうな音と共に、バルトの拳が当たった場所を基点に亀裂が急速に広がり始める。
(ま、マズい……)
レイの頬を冷や汗が伝う。
「……ちっ はあっ!」
バルトは諦めたような顔をすると、拳を引っ込め、
どうやらこの一撃は何とか耐えきれたようだ。
だが、間髪入れずに追撃が来る。
これ以上は無理だ。
そう思ったレイは、
「魔力よ。3本の光の矢となりて――」
「はあっ!」
パリン――
詠唱途中で
「終わりだぁ!」
バルトはそう叫び声をあげると、拳を振り上げ、レイの胸部へ一気に突き出す。
だが、レイは怯まずに詠唱を続けた。
「敵を穿て。
そして、ギリギリの所で詠唱が終わったレイは3本の
「な!? はあっ!」
バルトはレイに向けて突き出した拳を即座に引っ込めると、大きく後ろへ跳ぶ。だが、それだけでは
故に――
「ぐあっ!」
右肩、腹、左足にそれぞれ1本ずつ
「ぐっ……だが、まだやれ――」
「待て!」
バルトはまだやれると言い、立ち上がるが、ハリスの一声でまた膝をつく。
「この勝負もレイの勝ちだ」
こうして、レイ対バルトの戦いも、レイの勝利で終わった。
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