第三十一話 絶望
馬車にゆられ、街の中を進むこと約10分――
おもむろに馬車が1つの建物の前で止まった。
その後、少しして馬車の扉が開かれる。
「着いたか。よし、降りるぞ」
そう言ってガータンは立ち上がると、立ち上がり、馬車から降りる。
「分かりました」
レイは頷き、立ち上がると、ガータン、クリントンに続いて馬車から降りる。
そして、馬車から降りたレイが見たものは――
「す、すごい……」
目の前に聳え立っていたのは、豪邸だった。
馬車とは正反対の、白を基調とした美しい屋敷。そして、その前に広がる庭は小さいながらも、一流の庭師が手掛けたかのような美しさがあった。
思わず口を半開きにして驚くレイを見て、ガータンは呆れたようにため息をつくと口を開く。
「凄いと思ってくれるのは嬉しいが、取りあえず中に入るぞ。ついてこい」
「あ、はい。すみません」
ガータンの言葉で我に返ったレイは、そう言って頭を下げると、ガータンを護衛するクリントンとルイスの後ろを歩いて、その屋敷の中に入る。
「……凄い……」
入ってすぐのエントランスは解放感があり、天井まで7メートルはあるだろう。
床のタイルや壁の装飾等も、レイにとっては初めてのもので、レイからしてみれば、この空間はまさしく異世界だった。
このままもう少し見ていたいという思いもあったが、先へ行くガータンを見て、レイはその思いを押しとどめ、再び歩き出す。
そして、そのまま暫く廊下を歩き、辿り着いたのは裏庭にあるこじんまりとした小屋だった。
レイからしてみればそれも高価なものに見えるが、周りのもの比べると、どこか見劣りする、そんな小屋だ。
「よいしょっと」
ガータンは懐に手を突っ込んで、1本の鍵を取り出すと、小屋の鍵穴に差し込む。
ガチャリ。そんな音と共に小屋の鍵は解除され、ギーッと音を立てて扉が開く。
「よし。ついてこい」
どこか愉悦に満ちた声でガータンはそう言うと、小屋の中へ入って行く。
そんなガータンの言葉に、レイは一瞬だけ違和感を持ったが、直ぐに「気のせいか」と思うと、ルイス、クリントンに続いて小屋の中に入って行く。
「……ん?」
小屋の中に入ったレイは、途端にぞくりと背筋が凍るような思いに襲われる。
(何……この、雰囲気……)
小屋に入ってすぐの場所にある階段を下りながら、レイはあの時の光景を思い出す。
ここには、死の空気が漂っていた。あの時、カナリア村で感じたものと酷似している。
ドクンドクンと心臓の鼓動を感じる――だがそれでも、レイはガータンについて行く。
ガータンはいい人だと、ガストンから聞いていたからだ。
そうして不安に駆られながらも、階段を下りた先に見えてきたのは――牢屋だった。中には、何かいる。
「え、え、え、え……」
その光景に、レイは怖気づき、思わず1歩2歩と後ろへ下がる。
だが――
「おっと。流石にこれ以上は無理か。ルイス、連れていけ」
「分かりました」
ガートンの言葉に、ルイスは短く頷くと、レイの下へ歩み寄る。
まるで、死神が歩み寄るような光景だ。
そして、ルイスはレイの右手首を強く握ると、力を入れ、引きずるようにレイを先へと連れて行く。
「い、痛いっ! は、離してっ!」
レイは悲痛な叫び声を上げると、必死に身をよじってルイスから逃れようとする。
だが、まるで鉄の拘束具でもつけられているようにびくともしない。
そして、そんなレイの様子を横目に見ていたガータンの顔は――狂気とも呼べるほど愉悦に満ちていた。
「お前のようなガキが絶望に染まる瞬間を見るのは大好きなんだ」
「……っ!」
そんなガータンの顔を見たレイは、恐怖のあまり、まるで心臓が止まったかのような感覚に陥る。
ガータンはそんなレイを見て、「くふっ」と笑うと、歩いた先に見えて来た扉をゆっくりと開く。
六畳二間ほどのその部屋は、一面が冷たい石の壁で覆われていた。そして、血が付着した拘束台や、おぞましいことに使いそうな道具が置かれている。
すると、ガータンが口を開いた。
「お前は大事な贈り物。これからルークの手で、奴隷になるといい――では、頼んだぞ。ルーク」
直後、ガタッという音と共に拘束台の裏から、白衣を着た顔色の悪い男が姿を現した。
その男――ルークはガータンの前に立つと、軽く頭を下げ、口を開く。
「了解しました。では、後は私にお任せください」
「ああ、任せたぞ。注意点として、そいつは光属性魔法の使い手だ」
ガータンの言葉に、ルークは「なるほど。それでは隷属の首輪が使えませんね」と頷くと、口角を上げ、不気味な笑みを浮かべる。
「ですが、楽しめそうですね」
そんなルークの言葉に、ガータンはふんと鼻を鳴らすと、「お前も大概ひどい趣味だな。まあ、でなけりゃこんな商売やっていられないか」と言い残して、護衛と共にその場を去っていた。
去り際に、ルイスによってルークの足元に放り投げられたレイは、体を打った痛みで、苦しそうに呻き声を上げた。だが、戦闘訓練で鍛え上げられた状況判断能力によって、直ぐに
一方、その様子を見ていたルークは、レイを足蹴にすると口を開いた。
「お前はこれから奴隷になるんだ。つまりは物だ。物に人権なんてない。取りあえず、奴隷である証拠を刻むとしよう」
そう言って、ルークはレイの右腕を強引につかみ上げると、すかさず腰に差していた注射器を取り出し、レイの腕に差す。
「ううっ! ぐっ」
雑に注射器を刺されたことで、レイは苦悶の声を上げると、体をよじり、ルークの腕から逃れようと必死になる。だが、大人の力に子供が勝てるはずもなく、結局注射器に入っていた謎の液体を、全て注入されてしまった。
「な……」
突然体が痺れ、レイは床に横たえる。
そんなレイを見て、ルークは説明とばかりに口を開いた。
「今、お前に注射したのは、ポイズンスネークロードの毒を希釈したものだ。元は心の根すら止める強力な麻痺効果があるが、上手く調整すれば、今のお前みたいに死ぬことはないが、1歩も動けない状態になるって訳だ。動かれたら面倒だからね。では、準備しよう」
そう言って、ルークはレイを雑に抱きかかえると、拘束台の上にドカッと乗せる。そして、四肢をそれぞれ拘束した。これで、レイは何も出来ない。
「さて、首輪は……あ、あったあった」
ルークはガサゴソと拘束台の下にある木箱を漁ると、1つの黒い首輪を取り出した。
そして、ルークは首輪を持ってレイの首に手を当てると、手際よくレイの首に首輪をつける。
「これでよし。これでお前は立派な奴隷。働けと言われれば働き、死ねと言われれば死ぬ。そういうものだ」
だが、とルークは話を続ける。
「残念なことに、お前はまだ、奴隷としての在り方を理解していない。隷属の首輪でスムーズに分からせるのが常なのだが、お前は光属性魔法師――つまりは
奴隷の値段の8割が首輪代って言うのは、結構有名な話なんだよ~と、けらけら笑いながらルークはレイに奴隷についての話をする。
「さーてと。と言う訳で、これからお前を拷問する。それで心を折ってやろう……」
「……ん! ん!」
麻痺で呂律が回らないレイに、ルークはニコリと笑うと、木箱から金属製の細かいとげがびっしりとついた物を取り出す。
そして、それをレイの肌に当てると、ゆっくりと動かすのであった。
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