第四十一話 狂気の少年
「それじゃ、遠回しに言っても仕方ないし、端的に言うね。俺たち、”黒の支配者”は盗賊団だ。街道を移動する荷馬車等を襲い、金品を奪うことで生きている」
「そうなんですか……」
ルイの言葉に、レイはあまり感情のない声でそう言う。だが、そこには僅かだが、どこか納得したような雰囲気があった。
1か月間、特に情報統制などもされずに過ごしてきたのだから、当然と言えば当然だ。
だが、世間的に悪とされている盗賊が目の前にいるという事実を聞いても、レイは全く動じていない。
そのことに、ルイは安堵と不安という対極に位置する思いを同時に感じながらも、言葉を紡ぐ。
「君は知っての通り、”黒の支配者”唯一の光属性魔法師だ。故に、ここでの居場所はある。だが、世界的に見た君の居場所は……ない。その上で聞こう。君は、俺たちと共に、盗賊として生きていくかい?」
はたから見れば、もう選択肢のない言葉。暗に、もうここでしか君は生きることが出来ないよと言っているようなものだ。
だが、ルイとしても、レイは逃がしたくないのだ。”黒の支配者”という組織をまとめる者として、一番に考えているのは”黒の支配者”の利益だからだ。
そして、自分の――
一方レイは、ルイの言葉を聞き、思考を巡らせる。あの時のように相手の意見に押されて決めるのではなく、自分の意思で決めたいのだ。
(ただ、この黒の支配者の人たちから殺されることは、今までの感じからしてなさそうだ。でも、外に出れば、またあんな目に遭う可能性が高い。居場所とか関係なしに――)
こうして考えをまとめたレイは、ルイに向き直ると口を開く。
「分かった。盗賊として生きる」
そして、決意を表明した。
レイの言葉に、バラックは「そうか……」と、どこか嬉しそうな、されど悲しそうな声で頷く。
一方ルイは、ほっとしたように息を吐くと、軽い口調で問いを投げかける。
「そりゃよかった。でも、君って盗賊とかに対する悪感情とかはないの? 盗賊って、多くの人から嫌われる悪の象徴みたいなやつなんだけど」
「う~ん……。昔ならあったかもしれないけど、今はそういうのどうでもいい。僕は生きたいんだ。何としても、何を犠牲にしてでも生きるんだ。そこに、正義も悪も関係ない」
レイが奴隷になり、数多の拷問を受けてもなお、心が折れなかった理由――生への狂気的なまでの渇望。
その片鱗が顔に現れ、2人は思わず目を見開いた。
盗賊団の頭として、かなりの修羅場をくぐり抜けてきたルイでさえも、レイのそれは異常としか思えず、思わず身震いしてしまう。
何が、レイを動かしているのだろうか。
ルイは思わずそう問いかけそうになったが、寸でのところで言葉を飲み込む。これは、あまり踏み込むべき内容ではないと、咄嗟に思ったからだ。
代わりに笑みを貼り付けると、口を開く。
「そっか。まあ、それなら良かった。じゃ、これで話は終わりだ。色々と働いてくれたし、後は夕飯まで自由に過ごしてく――あ、そうだ。君にこれを上げるよ」
ルイは何か思い出したかのような顔をすると、席を立ち、後ろにある戸棚を漁る。
やがて、1冊の本を手に取ってレイの元まで歩いてくると、その本をレイに手渡した。
「これは……?」
レイは疑問に思いながらその本を手に取ると、表紙を見る。だが、血で汚れていて読むことは出来なかった。
すると、ルイが説明を始める。
「それは昔手に入れた光属性魔法の魔法書だ。表紙はそれだが、中身は大丈夫だから安心してくれ。で、そこにはほぼ全ての光属性魔法が詠唱と共に書かれているはずだ。見た感じ。君はまだ初級魔法の詠唱しか知らないみたいだからね。それをよく読んで、練習して欲しい」
「うん。分かった」
ルイの言葉に、レイは目を輝かせて喜ぶと、その本――魔法書を胸にぎゅっと抱きしめる。
これで、もっと強くなれる。そうすれば――命を脅かされる可能性もだいぶ減る。そうすれば――生き続けられる。
そう思い、喜ぶレイを見て、レイの内心を知らない2人は微笑ましそうにレイを見つめる。
「……それでは、早速やってもいいですか?」
「ああ。でも、今のレイの体で上級魔法や最上級級魔法を発動しようとすれば、魔力回路の発達不足から、体を痛め――最悪の場合二度と魔法が使えなくなる可能性すらある。だからあと2年程経って、体が成長するまでは、中級魔法までしか使ってはいけない。これ、絶対守れよ」
「だな。あ、剣術も怠るなよ。相手はいつでもやってやるからな」
「分かりました!」
レイは元気よく頷くと、部屋を跳び出して行った。
そして、残された2人はレイが走り去っていった後を暫く眺めた後、言葉を交わす。
「レイ君。中々いい子だな。それにあの向上心、きっと凄い魔法師……いや、凄い魔剣士になりそうだ」
「ああ。だな。ただ、ちょっと……と言うか結構不安なのは、さっきみたいなレイだよな。あんな本性を抱え込んでいるなんて、普段のレイからじゃ想像出来ない」
「だね。レイ君は純情そうな普通の子供に見えて、内面はかなり歪んでいる。狂った子供とでも表現すべきかな? それとも究極のエゴイストとでも呼べばいいだろうか。まあ、何にせよ、普通じゃないのは確かだ」
「本当に普段はうちの癒し枠みたいなもんだからな~。レイの健気な頑張りを応援している奴は結構多いんだぜ」
「そうだね。ただ、一先ずはレイ君が黒の支配者に残ってくれることを喜ぶとしよう。レイ君の内面も、交流を通して少しずつ改善してくれるといいんだが……」
「ああ。本当にそうだな……」
そう言って、2人はお節介を焼く大人のように、レイのことを思うのであった。
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