第十二話 その裏には――

「……あ、ありがとございます。それと……すみません」


 12歳という年齢で、赤子のように声を上げて泣き叫んだことに若干の恥じらいを感じながらも、レイは胸を貸してくれたゲイリスに礼を言う。


「そう思わなくていい。悲しい時に泣くなとは言わない。満足するまで泣けばいい。さて、他に言うことは……うん。もうこれ以上言う必要はないな」


 ゲイリスはそう言うと、椅子から立ち上がった。その顔には、先ほどまでとは違い、安心感というものがある。


「レイ君は体の調子が良くなるまで、ここで療養するといい。その後は、孤児院で暮らしてもらおうかと思っている。勉学を教えてくれたり、職を斡旋してくれたりと、今後のためになるだろう」


 ゲイリスは最後にこれからのことについてレイに伝えると、部屋から去っていった。


「……ふぅ」


 部屋で1人、レイは心を落ち着かせるかのように息を吐く。

 良くも悪くも素直な少年、レイは”幸せに生きてくれ”を額縁通り受け取り、父の最期の願いとして、叶えようと思っているのだ。


「……でも、少しぐらいは希望を持っててもいいよね」


 レイは天井を見上げると、ぼそりと呟く。


(ゲイリスさんの言う通り、みんなが生きていることは……ない。だけど、僕はこの目でお父さん、お母さん、リックの死を見ていない)


 なら、まだ生きていると思ってもいいのではないかと思う。

 そう思いながら生きた方が、ずっと気楽だから――


 ◇ ◇ ◇


 帝都某所にて。

 薄暗い部屋に、1人の白衣姿の男がいた。

 部屋には試験管やが入ったガラス管があり、さながらマッドサイエンティストの実験室だ。

 そこで、白髪の男は試験管に駒込ピペットで液体を入れる。


「……よし。後は経過観察だな」


 そう言って、男はくるりと背を向けると、愛用のソファへと向かい、深く腰掛ける。


「クロム・ガーランドが死んだか。想定とは少し違ったが……まあ、作戦通りだ」


 冷徹な声音で、男はポツリと呟く。

 本来であれば、クロムは刺客に殺させるつもりだった。だが、蓋を開けてみれば、村人相手に油断し、あっさりと負けたらしい。

 男は内心、「そんな驕り高ぶった人間を、俺は警戒していたのか」と、どこか自嘲するように言う――が、すぐに軽く頭を振って、その考えをかき消す。


「だが、あいつの超遠距離狙撃と”眼”が厄介なのは事実だ。あれと敵対するのは、勘弁だ」


 そう言って男は紅茶を飲む。


「……まあ、これで厄介な2人組は排除できたか。これで万が一討伐隊を組まれても、面倒なことをしなくて済む。これから、少々派手な実験をしそうだからな」


 超遠距離狙撃を得意とし、ただ存在しているだけで動きを大幅に制限してくる元第二軍団長、”遠弓”のクロム・ガーランド。

 魂に干渉し、最上位龍ですら無力化出来る呪縛を行使する元第三軍団長、”呪縛”のルドラス・バルフォイ。

この2人さえ居なければ、最悪どうとでもなる。

 だが、かと言って、進んで帝国軍部と敵対しようなどとは思っていない。昔よりは楽にやれるだろうが、それでも面倒なことに変わりないし――何よりそれが原因で王国に付け入られ、帝国が滅ぼされでもしたら目も当てられない。


「皇帝陛下……貴方の最期の夢――叶えてみせます」


 そして、に想いを馳せると、ティーカップを置いて立ち上がり、また別の研究に取り組み始めた。

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