第十七話 じゃんけんは平等だよね

 レイは首に突き付けられた木剣を見て、悔しそうに言う。

 リックとの戦いで、負けることには慣れてしまっているとはいえ、それでも負けるとやっぱり悔しいと感じるのだ。

 すると、ザクはどこか楽し気に口を開く。


「ったく。お前は中々強いな。まさか二度も意表を突かれるとは思いもしなかった。見たところ、致命的な課題が1つあるが、それさえ改善できればかなり凄腕の剣士になれそうだ。や~将来が楽しみだ。あ、一応魔法も見せてくれ。どの程度が気になる」


「分かりました。回復ヒール


 レイは魔法発動体の杖を手に取ると、無詠唱で自身の腹に回復ヒールを使う。

 無詠唱魔法は全然だが、魔法発動体の杖があれば、簡易的な回復ヒールぐらいなら無詠唱でもなんとか使えるのだ。

 すると、その様子見ていたザクはまたもや目を見開く。


「マジか。回復ヒールとはいえ、もう無詠唱かよ……凄いな。それなら大丈夫そうだ。剣と魔法の両方をこれから俺が指導する。お前なら、いずれBランク……いや、Aランク冒険者になれるやもしれん」


 剣と魔法の両方で、己以上の高みに登る可能性を秘めたレイに、ザクはレイの将来を期待しながら、そう言う。


「それじゃあ、まずは皆がやっているような基礎練習をやってくれ。レイの場合は……素振り200回と初級魔法50回だ。詠唱は……まずはしてくれ。これは基礎練習だからな」


「分かりました」


 そう言ってレイは起き上がると、早速剣を握り、素振りを始める。


「はっ! はっ!」


 素振りだけならもう2年近くやっている。慣れたものだ。

 レイはいつものように、ちゃんと自身の動きを意識しながら剣を振り続ける。

 そして、うっすらと汗をかき始めたところで200回の素振りが終わった。次は魔法だ。


「……よし。魔力よ。輝く光となりて辺りを照らせ。光球ライトボール


 レイは杖を構えると、光球ライトボールの詠唱を唱える。

 すると、杖の先に直径10センチ程の白く光る球体が出現した。

 光球ライトボールは周囲を照らすための魔法で、洞窟探索や夜間の外出でよく使われている汎用性の高い補助系の魔法だ。

 また、光球ライトボールは光属性魔法の中で最も簡単と言われており、ほとんどの光属性魔法師はまず、この魔法から手を付ける。

 レイは出現した光球ライトボールを空中でゆらゆらと動かしてから、パッと消滅させる。そして、再び詠唱をし、光球ライトボールを出現させた。

 その一連の動作をレイは50回行う。魔法は体力ではなく集中力と魔力を使うが、レイからしてみれば50回程度、どうということはない。


「……よし。終わった」


 基礎練習を終えたレイは、ザクにそのことを伝えるべく、周囲を見渡す。

 すると、周囲にいた子供たちは皆、1対1の模擬戦をしていた。互いに魔法を撃ったり、剣を振るったりと、皆自身の得意な戦い方で戦っているようだ。そして、その模擬戦には審判役のような人もおり、1つの模擬戦につき1から2人が審判役として付いている。

 その中にはザクもおり、皆の戦いぶりを真剣そうに眺め、戦いが終わった場所を見かけたら、アドバイスをしに行っている。

 レイはザクがアドバイスを終えたタイミングを見計らって、ザクに近づき、声をかける。


「ザクさん。基礎練習が終わりました」


 すると、ザクはレイの方を振り返り、口を開く。


「ああ、終わったか。なら、次は模擬戦だな。取りあえず……あそこのグループに入れてもらうか」


 そう言うと、ザクは模擬戦をしているグループの1つに近づく。


「すまん。一旦話を聞いてくれ」


 その言葉で、彼ら3人は模擬戦を即座に止めると、額の汗を手で拭いながらザクに視線を向ける。


「頼む。ここにレイを入れさせてくれないか?」


 ザクはレイを横目に見ながらそう言う。

 3人はザクの言葉に、少しだけ顔を見合わせてから、皆口々に応える。


「別にいいですよ」


「戦ってみたいしな」


「うん。入れていいよ」


 3人とも悩む素振りすら見せずに快くレイのグループ参加を認めた。


「よし。ありがとな……おい、レイ。このグループに入りな。仲良くしろよ」


 ザクはそう言うと、もう自分は用済みとばかりに去って行った。

 残されたレイは、体を動かしたことで気がほぐれたのか、先ほどよりもスムーズに自己紹介をする。


「僕の名前はレイ。12歳です。入れてくれてありがとう」


 そう言って、レイは頭を下げる。

 すると、レイよりも大柄な少年がずいっと前へ出ると、おちゃらけた雰囲気で口を開く。


「そう硬くなるなって。あ、俺の名前はバルトだ。よろしくな」


 そう言って、少年――バルトはレイの肩をバシバシと叩く。

 思いのほか力が強く、肩がじーんと傷む。だが、悪い気はしない。


「さっきも言ったがハリスだ。年は14。よろしくな」


 続いて、先ほどレイの横の席にいた少年――ハリスが口を開く。

 自己紹介は少し前にも受けたが、今一度自己紹介を受けてみると、ハリスからは真面目さというものが見て取れる。


「私の名前はエリー。11歳。よろしくね」


 そして最後に、栗色の髪を肩まで伸ばした少女――エリーが元気よく自己紹介をした。


「さて、自己紹介も終わったことだし、取りあえずどの組み合わせで戦うか……」


「まずは俺らで三連戦だろ! で、最初に俺がレイと戦う。どれぐらい強いか早速この身で確認したいからな」


 腕を組み、考えるような仕草をしていたハリスの声に被せるように、バルトが声を上げる。


「……そうか。まあ、やりたいなら先で良いぞ」


 口を挟まれたことが気に入らないのか、少しだけ眉を潜めつつも、ハリスはバルトの言葉に頷く。


「え~最初は私がやりたい~」


 だが、エリーはバルトの言葉に異を唱える。

 すると、バルトは途端に不機嫌そうな顔になった。


「先に俺が言ったんだから、俺が先な」


「そういうのを不平等って言うのよ!」


 途端に2人の間が険悪なムードへと変わっていく。

 喧嘩は何も生まない。

 そのことを父、グレイから口を酸っぱくするほど言い聞かせられていたレイは、衝動に押されるがままに2人の間に割って入る。


「2人とも! 喧嘩は駄目だよ」


 そう言って、レイは両手を広げ、2人の距離を離す。


「別に喧嘩はしてねぇよ。こいつが引てくれりゃ済む話だ」


「私は絶対に引かないわ」


 だが、喧嘩が止まることはなかった。


(こういうときは……あ、こうすればいいんだ!)


 咄嗟に頭を捻り、レイは1つの解決策に辿り着く。


「だったらじゃんけんで決めて。一発勝負の」


 レイは2人にじゃんけんで決めようと提案する。

 じゃんけんなら、平等に物事を決めることが出来る。

 故に、決まった後に文句が出ることはないはずだ。

 問題は、2人がじゃんけんで決めることに同意してくれるかだが……


「じゃんけんか……まあ、いいだろう。どうせ俺が勝つし」


「私が勝つ。バルト君には負けない!」


 2人はやる気を漲らせながらそう言う。どうやら、じゃんけんで決めることに同意してくれたようだ。

 そのことに、レイはほっと安堵の息を吐く。

 その間に2人は手首をグルグルと回してそれっぽい動きをすると、構える。

 そして――


「「……最初はグー、じゃんけんポン!」」


 2人は一斉に拳を動かし、自身の選択を相手に見せつける。

 その結果は――


「バルトがグーで、エリーがパーだから、エリーの勝ちだ」


 その勝負の行方を傍から見守っていたハリスが結果を告げる。

 こうして、じゃんけんはエリーの勝ちとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る