第五十六話 最後の切り札
直後、レイから膨大な魔力が溢れ出した。膨大過ぎるが故に、その周囲一帯が歪んで見えるほどだ。
「な!?」
「何を!?」
いきなり現れた凄まじい魔力の奔流に、その場にいる全員が固まる。
動けたのはリックだけだ。
(マズい。俺の予想が正しければあれは――)
リックは途端に全力を出しても勝てないと悟り、逃げる準備を始める。
その直後、レイが動き出した。
「
手始めとばかりに、レイは無詠唱で3つの上級光属性魔法を行使すると、襲撃者に向けて放つ。その中には当然リックも含まれていた。
「ぐっ ヤバいぞ!」
「撤退だ! 撤退!」
「うわあああ!!」
有利だった戦況が一変して、阿鼻叫喚の嵐となりながらも、襲撃者たちは一斉に逃げ出す。
流石は高ランク冒険者と言うべきか、一応対処は出来ている。
だが、そこに本命の攻撃が降り注ぐ。
「
直後、上空に無数の聖剣が現れたかと思えば、雨のように降り注ぎ、襲撃者たちを襲う。
最上級光属性魔法、
本来なら上級魔法と同様、レイの実力では無詠唱で行使できない魔法――だが、膨大な魔力を使うことで強引にそれを可能にしている。
だが――
「――
直後、強大な風の壁が現れ、天より降り注ぐ聖剣を完全に防ぐ。凄まじいほど圧縮されており、それにより発生した熱で景色が歪んで見えるほどだ。
これはリックが発動した簡易版の神級風属性魔法、
範囲こそかなり縮小されているものの、出力だけを見れば、本物と大差ない。
「ごほっ」
だが、それを発動したリックが吐血した。
無理もない。簡易版とは言え、最上級魔法の更に上、神級魔法という本来であれば100人以上の高位魔法師が組んで行使するような魔法を1人で発動させたのだ。
これこそがリックの奥義が1つ。世界でも片手で数えるほどしか行使出来る人はいないとされる絶技だ。
それにより、何とかリック含めた全員が、森の中へと逃げ込むことに成功する。
「くっ 逃がさない!」
まだ転換した魔力は残っている。
レイはその場に倒れている仲間に
「
レイは逃げる襲撃者たちに、上空から聖剣の雨、背後から超巨大な光の光線を放つ。
同時に放たれた2つの最上級魔法。
これであらかた仕留めたと判断すると、レイは残る襲撃者――リックただ1人を狙って魔法を放つ。
「
リックが自身にやったように、圧倒的物量で逃げるリックを仕留めんとする。
だが、とうとう
「ああ、疲れた……」
レイは力を使い切ったとでも言うかのようにその場で仰向けに倒れた。
そして、レイが意識を失う前に見た最後の光景は、自身に駆け寄る仲間たちの姿だった。
◇ ◇ ◇
大分前のことだった。
レイは生きるために、強くなろうとした。だが、当然中々成長できないときもあった。
そんな時、レイは圧倒的な力を得ることが出来る
執念に執念を重ね――そうして出来上がったのは
出来上がった
いくらかの寿命と命全て。どちらを取るかなんて言うまでもないのだから――
◇ ◇ ◇
その頃、リックは”黒の支配者”のアジトから1キロほど離れた場所で息切れを起こしながら座り込んでいた。
あれほどあった魔力も、もうすっからかんだ。
「くっ まさか生命力を魔力に転換する魔法が使えたとは……それも既存の魔法とは比べることも烏滸がましいレベルの転換効率。恐らくあれがレイの
そう言って、リックは傷口に付着した血を拭う。
まさかレイがあれほどの切り札を隠し持っているとは夢にも思っていなかった。
お陰で生存者は俺だけだろう。
そう思い、リックは深く息を吐く。
「一応、俺も最後の切り札を切れば勝ててただろうな。それを使わなかったのは、俺にその覚悟がなかったから……か」
あの時、もしリックが最後の切り札を切っていれば、周りにいた冒険者を死なせることもなかった。だが、命を惜しいと思う心がそれを拒絶した。
その切り札の名は――
その効果は――
………
………
………
リックは自身の
「あいつと俺。気が合うとは思っていたが、まさか
もし、少しでも運命が異なれば、レイは敵ではなく、背中を任せられる最高の相棒になっていただろう。
だが、その未来はもう――来ない。
「ふぅ……そろそろ行くか。血の匂いで、魔物が集まってきそうだ」
リックはそう言うと、よろよろと立ち上がる。
そして、森の外へ向かって歩き出した。
次は勝つ。そう意気込んで――
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