第二十七話 フェリスvsリック
リック視点
その後、食事を終えた俺たちは片づけをすると、再び外に出た。
これからやるのはフェリスさんとの模擬戦。これも、強くなるためには必要なことだ。
今までも冒険者として成功する為に強くなろうとしていたが、理由が1つ増えた今は、強くなることに対する欲望がより一層強くなっていた。
その理由は――盗賊を根絶やしにする為。
……いや、別にこの世界から盗賊を1人残らず駆逐するとか、そう言う話じゃない。
ただ単に、手の届く範囲にいる盗賊を根絶やしにするってだけの話だ。
俺と同じような目に合う奴が、居なくなって欲しい――という気持ちも当然あるが、実際は腹いせの気持ちの方が大きい。
理不尽に俺から平穏を、住む家を、皆を奪った盗賊どもを、俺は一生許さない。
そんな思いを胸に、俺は杖を構える。
一方、フェリスさんは無手――だが、油断は一切できない。魔法発動体が無くたって、フェリスさんは相変わらず強いのだ。
「魔力よ。圧殺せよ。
風が渦巻くとともに、風がフェリスさんを押し潰さんと襲い掛かる。中級風属性魔法、
「ほいっと」
だが、フェリスさんがパチンと指を鳴らした途端、その風は霧散するように消えてしまった。
おいおい。いきなり完全無詠唱とか、今日は容赦ないな……
つーっと冷や汗が1粒零れ落ちるも、手でさっと拭い、次の手に移る。
「魔力よ。大地へ干渉し辺りを揺らせ。大地の怒りを露わにせよ。
杖の先端を地につけ、完全詠唱を唱える。
その直後、フェリスさんの周囲数メートルがゴゴゴゴ――と音を立てて揺れ始めた。
これは上級土属性魔法、
上級魔法を完全に発動しようものなら、また前のように数日動けなくなっちゃうからな。
「凄いね。これも発動できるんだ」
フェリスさんはニコリと笑いながら、感心するようにそう言うと、ふわりと空中に浮く。中級風属性魔法、
だが、それは想定の範囲内。既に対抗魔法の詠唱中だ。
「……
その直後、地震が収まったかと思えば、地面が途端に5本の槍の形状になり、一斉に掃射された。
そして、一直線にフェリスさんへ襲い掛かる。
「おっと。魔力よ。壁を。
流石に完全無詠唱の出力では防ぎきることが出来ないと悟ったのか、フェリスさんは短縮詠唱で
よし。ようやく詠唱を使わせた。
ただ、詠唱をしたってことは、そろそろ反撃されるだろうな……
「じゃ、今度は私から行くわ」
案の定、そう言ってフェリスさんは右手をすっと俺に向ける。
その直後、3本の
「魔力よ。渦巻け。
直後、上空の風が渦巻き、
おいおい。ちょっと昨日より威力高くねぇか……?
それ、まともに当たったらただじゃ済まんぞ……
「まあ、あれに当たるようなら話にならんな。魔力よ。強化せよ。
今度は短縮詠唱で
ここからは接近戦だ。
「はああっ!
そして、あと1メートルというところまで接近したところで、初級魔法、
ただ……
「悪くない手だけど、初級魔法じゃ簡単に防がれるわよ」
そう言って、フェリスさんは
だよねぇ……そうなるよね……
でも、これくらいしか今の俺には打つ手がないんだよ!
「ったく。マジでどうすりゃいいんだ……」
地面に降り立った俺は、頭を掻きながら悪態をつく。
この2週間で、フェリスさんとの戦いにはだいぶ慣れてきた。だがそれでも、未だ掠り傷1つ与えられていない。
その主な理由は純粋な火力不足。だが、これは鍛錬でどうこうできるものではない。体が成長し、魔力回路が完全にならない限りは解決できないのだ。
そんな俺が今出来ることと言えば、立ち回りの改善だろう。戦い方を良くするだけで、だいぶ変わると思っている。
だが、立ち回りはまだ手探り状態で、手応えは全く感じていないというのが現状だ。
前にフェリスさんにアドバイスを求めてみたのだが、どうやらフェリスさんは説明がかなり苦手のようで、残念なことにあまり当てにはならなかった。
いやだって、「ここをこうっ!」とか、「ぐっとしてひょいっ」とかを申し訳程度のボディランゲージと共に伝えられても、理解できないだろ?
「はぁ……まあ、諦めずに頑張り続ければいつか、見つけられるだろ」
そう呟くと、俺は再び詠唱を紡ぎ、魔法を発動させるのであった。
強く、なるために――
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