第四十七話 戦いの始まり
作戦会議が終わり、ルイの自室から出たレイは一旦自室へ戻ると、襲撃に行く準備を整える。
隠しポケットに入れた魔道具に不備が無いのかを確かめ、次に腰に携えた片手剣を軽く手入れ。最後に左人差し指にはめた指輪型の魔法発動体を付け直す。これらは全て略奪とそれによって得た金品で購入した物。レイは幹部故に、その装備品はどれもこれも一級品だ。
特に指輪型の魔法発動体は別格で、これ1つで平民なら一生遊んで暮らせるだけの金が飛んでいる。が、ルイから幹部昇格祝いとしてほいっと気軽に渡されたせいで、レイはそこまでの代物だとは思っていない。だがそれでも、使い心地だけで高級品ということだけは察している。
「よし。行こう」
こうして準備を終えたレイは部屋のドアを開けて、外へ出る。そして、そのまま走って洞窟の外に出た。
洞窟の外では既に多くの仲間たちが出発の準備を終え、待機していた。
この面々は3年前と何も変わらない。いや、数名増えてはいるか。
それは暗に3年間の”黒の支配者”の死者数が0であることを示している。そして、その最大の功労者は無論レイだ。
やはり、戦闘中に重傷を負っても、上級の回復魔法が使えるようになっているレイのお陰で直ぐに回復できるのはかなり大きいのだ。
「お、これで全員揃ったね」
バラックとノイズを連れて皆の前に立つルイは、背後から来たレイに視線を向けると、そう言う。
「ルイさん。もう行きますか?」
「ああ。では、行こうか」
こうしてルイと幹部3人。そして、18人の盗賊の計22人は一斉に目的地へ向かって歩き出した。
目的地は全員ルイから伝えられて把握している為、足取りに迷いはない。
道中で魔物が襲ってくることも少なくないが、ルイが呪いでデバフをかけ、他の皆が攻撃することで、ほとんど消耗することなく撃破し、進んでいく。
そうして歩き続けること約1時間で、ようやく目的地にたどり着いた。
「あそこか……」
レイは森の中から、約50メートル先にある街道を観察するようにじっと見つめる。そして、それと一緒に周囲の地形状況も確認する。
襲撃場所は小さな丘を下った先に位置している。確かにあれなら、遠くから襲撃を見られる可能性は低いことだろう。
「なあ、お頭。獲物が来るのはいつぐらいだ?」
バラックの問いに、ルイは少し考えるような仕草をしてから口を開く。
「たった今、
ルイの答えに、バラックは安堵の息を漏らす。それは、レイも同じだ。
”黒の支配者”は月に数回こうして襲撃をしに来るのだが、その際に狙うのは襲撃が第三者見られない状況のみだ。
贔屓目に見ても”黒の支配者”の戦闘能力は他の盗賊団と比べると群を抜いて高く、もし存在が公になれば、最悪の場合即座に高ランク冒険者で固められた討伐隊を組まれてしまう。それは、何としても避けなくてはならないのだ。
故に、こうして他の盗賊団が見たら慎重になりすぎだと思うぐらい、襲撃には慎重になっている。
すると、ルイが唐突に地面に落ちている木の枝を退かし始めた。
そして、ある程度退かすと、今度はそこに長さ20センチ程のミスリルの杭を6本、50センチ間隔で六角形を描くように地面に突き刺す。
「もう
「ああ。ちょっと進むペースが上がったらしいからね。発動に時間がかかるし、まあ念のためだよ」
ノイズの問いに、ルイは軽い口調でそう答えると、先ほど突き刺したミスリルの杭で描かれた六角形の輪の中に入る。
そして、その中で胡坐をかくと、目を閉じ、詠唱を始める。
「魔力よ。闇となりて呪いの力を刻み込め――」
そして、1分後――
「――繋げ。俺が支配者。
直後、ミスリルの杭が神秘的に黒く光り出したかと思えば、それぞれの杭に黒い光を伸ばす。
そうして六芒星を描くと、今度はそこからぶわっと黒い光が広がり、レイたちを包み込む。
だが、レイたちは動じない。動じることなく、ただそれを――ルイの支配を受ける。
そして、ゆっくりと広がった黒い光が消えてきたところでルイが目を閉じた状態で口を開いた。
「これでよし全員に繋がった。後は、獲物が近づいてきたタイミングで色々やるから」
ルイの言葉に頷きつつ、レイはルイが発動した
盗賊団の名を冠するルイの
身体強化の呪いで味方全員の身体能力を強化したり、魔法や魔闘技を使えない味方に魔力を奪う呪いをかけ、逆に魔法を使う味方に魔力を押し付ける呪いをかけたり――他にもあるが、言いだせばキリがない。
因みに、そういったその人独自の魔法のことを、
人によって魔力の性質と魔力回路は微妙に違い、それらを最大限生かせる魔法を生み出そうとすれば、いずれ創れるようになると言われている
1人はルイ。そして、もう1人は――
「……!? 来たぞ!」
遠方をじっと見つめていたバラックが突然そう言った。
そして、その言葉に反応した皆は一斉に身を潜める。ここでもルイの
一方、何も知らない馬車の御者とその護衛たちはゆうゆうと街道を進み続ける。呑気に笑いながら雑談をしているほどだ。
一応警戒はしているみたいだけど、あの程度でルイの呪いは突破できない。
そして、とうとう馬車はレイたちの前方にまで迫っていた。
そこで――
『今だ。やれ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます