第十五話 自己紹介は緊張気味

 部屋を出たガストンは廊下を歩き、玄関を抜けて外に出ると、息をすーっと吸い、一気にそれを声として出す。


「おーい! そろそろ朝の外遊びはお終いだよー! みんな戻ってこーい!」


 老人らしからぬ大きな声に反応して、外で遊ぶ子供たちが続々とかけ駆け寄ってくる。

 子供たちはバタバタと足音を立てながら、孤児院の中へと入って行く。


「ちゃんと靴裏の土を落としてから入ってね~」


 そんな子供たちに、ゲイリスはそう言って注意をする。全員が聞いているわけではなさそうだが、それでも言うのと言わないのとでは大違いなのだ。

 孤児院の中に入った子供たちは、そのまま廊下を早歩きで進み、レイが今居る部屋の前を通り、奥にある一際広い部屋――総合教室に入って行く。

 子供たちの中には1人ポツンと部屋に残るレイと目が合う人もいたが、後ろの人に押され、何も話すことなく通り過ぎていく。

 そして、全員が総合教室へと行った後、ガストンがレイの所に戻った。


「待たせたね。さあ、これからレイ君の仲間となる子たちの所に行くよ。ついてきなさい」


「うん。分かった」


 ガストンの言葉に頷き、席から立ち上がったレイは、ガストンの後について行くように部屋の外に出た。そして、そのまま少し廊下を歩き、1つの部屋――総合教室に通される。

 部屋の中にはいくつかの丸い大きな机と、その机を囲うようにして沢山の椅子が並べられている。そして、それらの椅子には先ほどレイが見かけた子供たちが座っていた。数は……およそ30人といったところだろう。


「あ、さっきの子だ!」


「やっぱり新しい子だったんだ~」


 子供たちから再度、レイは注目の視線を浴びる。さっきよりも視線の数は多い。

 そんな視線を一身に浴び続け、レイはまたもや萎縮し、小さくなる。

 すると、そんな視線を撥ね退けるかのようにガストンが1歩前に出た。


「皆! 今日は新しい仲間が来たよ! 取りあえず、静かにしてくださいね!」


 ガストンが声を上げた途端、ざわつきはピタリと止む。一瞬にしてこの場は静寂に包まれた。


「ありがとう。それじゃあ、自己紹介をしておくれ」


 ガストンは満足げに頷くと、そう言う。

 レイは無言で頷くと、1歩前へ出た。そして、口を開く。


「僕の名前はレイです。これからよろしくお願いします」


 緊張し、少し硬い感じになりながらも、レイは皆に自己紹介をした。


 パチパチパチ――


 すると、皆から一斉に拍手が上がった。どうやら皆、レイのことを歓迎しているようだ。


「ありがとう。それじゃあ、レイ君はハリス君とサイラス君の間の椅子に座ってくれないかな」


 ガストンはニコニコと嬉しそうに言うと、右後方を指差す。

 すると、レイと同じぐらいの年齢の子供2人が手を上げた。よく見ると、その2人の間には空席がある。

 あそこが僕の席なのか。

 そう理解したレイは一言、「分かりました」と言うと、確実な足取りでそこへ向かった。

 そして、その椅子にそっと腰かける。

 レイが座ったことを見届けたガストンは、再び口を開いた。


「いつものように1組は教室1、2組は教室2、3組は教室3、4組は外。レイ君は、一先ず4組。つまりは外に行ってね。それじゃあ、解散!」


 ガストンが言葉を切った直後、皆一斉に席を立ち、動き出した。

 レイは少し反応が遅れつつも、皆の後について行くように歩き出し、外へと向かう。

 すると、何人かに声をかけられた。


「レイ。俺の名前はハリス。冒険者志望だ。よろしくな」


「僕の名前はゼノ。文官志望だよ」


 そんな感じで皆口々に自己紹介をする。ただ、話しかけてくる人はそこまで多くはなく、大半は少し離れた場所から、様子を窺うようにレイを見ていた。


「うん。ハリス、よろしく。ゼノもよろしく」


 レイは愛想よく、笑顔で彼らの言葉に応える。

 だが、これでは中々前へと進めない。かと言って、彼らからの言葉に答えないわけにもいかない。

 そのことに少し悩んでいると、この状況を見かねたガストンが口を開く。


「皆。レイ君が外に行けなくて困ってますよ。レイ君と話すのは、また後にしてね」


 ガストンの言葉で、皆は「じゃあな。また後で」といった様子でレイのもとから離れ、自分たちが行くべき場所へ駆け出して行った。

 レイも、そんな彼らの後に続いて外へ出る。


「えっと……ああ、そっちか」


 外に出たレイは前の人について行く。

 そうして辿り着いた先は、孤児院の左側にある、日陰のスペースだった。

 その中心には井戸があり、ロープが括り付けられた桶がその横にいくつか置かれている。


「これから何をするんだろ……?」


 外に行けと言われたが、それ以外は何1つ聞いていない。

 ただ、外でやることというと、自然と限られてくる。


(皆の様子を見るに、多分鍛錬とかかな?)


 まるで剣を構えているかのような仕草を取る人を見かけ、そう予想した次の瞬間。


「おーし。みんなー! 今日も始めるぞー!」


 突然背後から元気そうな男の声が聞こえて来た。

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