第二十一話 ザクの助言
パチパチパチ――
すると、近くから力強い拍手の音が聞こえて来た。
音がする方に視線を向けると、そこには感心したような顔でゆっくりと拍手をするザクの姿があった。
「ちょくちょく見てたが、なかなか良かったな。ただ、3連戦はちょっと酷だぞ?」
ザクさんは笑いながらそう言うと、バルトの肩にポンと右手を乗せる。
一見ただ仲のいい師弟の関係に見えるが、ザクから漏れ出る若干の威圧感と、やけに強く握り締める右手を見ると、その考えは改めざるを得なくなってしまう。
「あ、ああ。まあ、そうだな。うっかり忘れてたぜ……」
バルトは冷や汗をかき、目を横に逸らしながらそう言う。
(それ、悪いことした人が言い訳をする時の顔なんだけど…… それじゃあ逆効果なんじゃ……)
そんなレイの不安をよそに、ザクさんはバルトから手を引くと、口を開く。
「どうせこいつが言い出しっぺなんだろうが、お前らもレイの疲労を考えろよ。結構無理してたみたいだし」
「「「はい……」」」
ザクのもっともな意見に、3人は素直に頷く。
一方レイは、咄嗟に「無理してない」と言おうとするも、一気に疲労が押し寄せてきたことで、口をつぐむ。
「よし。そんじゃ、ついでにちょっとアドバイスしとくか。まずはエリー。何度も言ってるが、お前は相手を見ろ。レイの剣をちゃんと見ていれば、少なくともああはならなかったはずだ。まずは常に目を開けることを心掛けろ。怖いだろうが、そこら辺は少しずつ慣らしてけばいい。1番駄目なのは、諦めて挑戦すらしないことだ」
「はい……」
エリーはしゅんとへこんだように頷く。
その反応を見たザクは小さく頷くと、バルトに視線を移す。
「で、次はバルトだな。お前は跳び過ぎだ。あれじゃあ隙を晒すようなものだぞ? 自分で考えた戦術を使いたい気持ちはよく分かるが、それよりも今の戦術を高めることを優先してくれ。無論、手札は多い方がいいがな。ただ、今はその時じゃない。分かったか?」
「ちっ せっかくいい戦術が思いついたと思ったのに……」
バルトは不貞腐れたようにそう言う。
そして、次にザクはハリスに視線を移す。
「そしてハリス。お前はだいぶ手首のブレが直ってきたな。ただ、それでもまだかなり目立っている。今後も基礎練を集中的にな。昔みたいに立ち回りばかりやるんじゃないぞ」
「何度も言われなくたって、分かりますよ……」
ハリスは鬱陶しそうにため息をつきながら頷く。
そして最後にザクはレイに視線を向けた。
「よし。それじゃ、最後はレイ。お前は立ち回りをもっと学べ。お前の戦いは基本、所見殺しや二重三重のフェイントを挟んだ攻撃を初手で一気に叩き込むことによる短期戦。それゆえに、あらかじめ考えていたパターンで倒しきれないと一気に弱くなる。まずはハリスを中心とした周りの動きをまねつつ、戦いながら立ち回りを考えることを意識するんだ」
「……分かりました」
ザクの指摘に、レイは落ち込みつつも頷く。
その癖は、レイも少し前から十分に理解しているつもりだった。
リックと戦い、負け続けたせいで、いつしかリックに一矢報いることだけを考えるようになっていた。
そのせいで、無意識の内に初見殺しや初手の過剰なフェイントを重視するようになっていたのだろう。
(でも、これからは強くなるために、今の勝利よりも将来の勝利を考えた鍛錬をするよう心がけよう。弱いままでは、また失うだけなんだから――)
幸せに生きる為に、強くならないと。
レイはそう、決意した。
「……さて、言葉で伝えられるのはこんなとこだな。それじゃ、鍛錬再開だ。俺が行ったことを頭の片隅にでも置きながら、経験を積み続けろ。何だかんだ言って、色々考えるよりもそれが一番いいからな。あ、分からんとこがあったら遠慮なく聞けよ」
そう言い残して、ザクは踵を返し、去って行った。
その後、少しの間静寂の時が流れた後、バルトがビシッとレイに人差し指を向けると、口を開く。
「おっし! レイ! これからもう一度やるぞ! 今度こそ俺が勝――へぶぅ!」
すると、ハリスが手馴れた動きでバルトの背後に回り、脳天に手刀を振り下ろす。
「さっきザクさんに言われたばっかだろ? レイに四連戦させるつもりか?」
ハリスの呆れた口調の言葉に、バルトはふぐぅと言葉に詰まる。
「……だ、だがよ。流石に勝てそうな相手に負けっぱなしなのは嫌なんだよ。だからつい……」
「分かった分かった。お前の相手は俺だ。一応勝てそうな相手だろ? てか、一応勝ったことあるだろう? 大分卑怯だったけど」
「そう言って俺をまたフルボッコにするつもりかぁ! てか、まだそれ根に持ってるのかよ!」
不敵な笑みを浮かべるハリスに、バルトは勘弁して欲しいとでも言いたげな顔で、叫び声を上げる。
バルトは試合開始前にこっそりと詠唱を済ませ、開始直後に完全詠唱による
当然ハリスはそのことを根に持っており、事あるごとにそう言ってバルトを正面からボコしている。
そんな2人を他所に、レイは額の汗を手で拭うと、軽く息を吐いた。
「ふぅ……喉が渇いたな」
ザクと戦い、基礎練習をし、そのまま三連戦した。
そのせいで今は疲労困憊、喉もカラカラだ。
レイはその場に木剣を置くと、すぐ近くにある井戸へ向かった。そして、ロープのついた桶を垂らして水を汲み上げると、その水をゴクリゴクリと飲む。
「……ぷはぁ」
乾いた喉が水で潤い、気持ちがいい。生き返ったような気分だ。
その後も続けて2口3口と飲むと、最後に手足を水で濡らして体を冷やす。
「ふぅ……それじゃ、戻るか」
桶をその場に置くと、レイはペチペチと手足を叩いて水を軽く落としてから、皆の所に戻った。
そして、それから昼間でずっと鍛錬に勤しむこととなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます